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■2012年3月3日:雨の牙

クリックして拡大  原題:Rain Fall (2002年アメリカ)
 著者:バリー・アイスラー
     Barry Eisler/1964- アメリカ生
 文庫初版:2002年1月20日 ヴィレッジ・ブックス
 初版時価格: 760円
 巻数:単巻
 品番:F-ア1-1
 管理人読了日:2006年8月12日
 映画化:2009年、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、日本
 映画題名:原題と同題
 映画主演俳優・女優:
 椎名桔平
 長谷川京子
 ゲイリー・オールドマン
 日本語DVD化:2009年
 ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン株式会社

フリーの殺し屋である日米混血の主人公”ジョン・レイン”が東京を舞台に活躍するこのシリーズ、
著者はCIAのエージェントとして東京に数年間在住し、日本語もペラペラらしい。さらに、柔道は黒帯の腕前とのこと。
もっとも、CIA〜の部分は驚くには当たらない。
今どきは諜報機関も一丁前にwebサイトを持っているし、何処に居てもおかしくはない。
それより驚きなのは、バリー・アイスラーのその取材力だ。
本書の”売り”の一つとして主人公が立ち寄るレストランやカフェの描写があるのだが、
その土地勘というか記憶なのかマメに記録しているのか、とにかくgoogle mapが搭載されているのではないかと思えるほど正確で、
目黒の蕎麦屋<一茶庵>でも南青山の<蔦珈琲店>でも、とにかくその場所に本当にその店があるか、あったのである。
しかもこれが外国人だというからなおさらすごい。
これは東京だけでなくバンコクのバーン・カニタ(同店は超有名だが)でも同じだ。
とにかく”街”に関して何処の地域でも、著者がそこに関して一家言持っているというところがすごい。

私は舞台が香港に移った第三作目から最初に読んだので、遡って1・2巻を読んだのだが、夢中で読んだ。

バリー・アイスラーはスリルやサスペンスの他にロマンスまで巧みで、
主人公レインとヒロインみどりとの叶わぬ恋は、読んでいるこちらまで年甲斐に無く胸が詰まる思いで、
男として思わずレインに同情してしまった。
ペットを買うときでも女と知り合うときでも同じだと思うのだが、「これだ!」というときは、天啓があるものなのである。

物語の出来栄えの基準の一つに如何に感情移入出来るかがあると思うのだが、その点では
舞台が東京である前半2作は、前述の主人公とヒロイン・みどりの恋に於いて著者の腕前が光る。
こういった冒険・スパイ小説やアクション映画では、定食の飯と味噌汁のように
当たり前に男と女が登場して、何の脈絡もなく関係を持つことが多いが、
レインとみどりの関係はそんなことはなく、恋が芽生えていくプロセスがキチンと書かれているのである。
著者は人間の素直な感情描写に優れている。正直に言って感動した。

物事はプロセス(過程)が大事なのである。プロセス・プラン無く良いものは作れないのだ。


簡単に同作品を紹介しておこう。
レインは殺し屋であるから、当然殺しの依頼を引き受ける。それも日本の政治家から。
そして仕事を完了し、ふとしたことからターゲットの娘、みどりと知り合ってしまい、
もちろんレインは彼女がターゲットの娘であることを程なく知るのだが、
それと同時に自分が殺した相手はどうやら善玉であったことも知る。

日本の官僚社会にはびこる”汚職”と言う名の敵との戦いの火ぶたが切って落とされたとき、
本当の敵は自分の過去にも関係していると気が付くレイン。
主な格闘相手は日本映画にはお決まりの「ヤクザ」である。
世間では「ヤクザ」がマフィアみたいに映画化されたりしているが、私はこの「ヤクザ」という連中が嫌いだ。
日本人は仕事をし過ぎる、と言われるほどの社会にあって仕事をしない、
ケチな街のチンピラであり、格好良くもなんともない。
イエロー・モンキーは西部劇のガンマンにはなれないのである。
話が逸れたが、とにかくレインの対戦相手は日本の路地裏のストリート・ファイター達だ。

物語はコンピューター・オタクの「ハリー」、刑事である「タツ」
(この二人の名前は外国人であるレインが付けたあだ名であり、レイン自身もそうなのだが
実際にはちゃんとした日本語の氏名を持つ)
といった魅力的な脇役も交え、スリル溢れる謀略が展開する、諜報小説の黄金ストーリーだ。


”ジョン・レイン”シリーズは今のところ以下の4作まで日本語に翻訳されている。
雨の牙
雨の影
雨の罠
雨の掟
既述のように最初の2作は東京、そして後半2作ではレインは活動の場を世界へと広げていく。
同シリーズは主人公の姓にちなみ、”雨”を冠するタイトルが慣例となっている。

”ジョン・レイン”シリーズは4作目を最後に続巻は未だ翻訳されていない。
当初、”ヴィレッジ・ブックス”なる妙な名前の出版社は聞いたことがないので、
書店が潰れでもしたのかと思っていたのだが、どうもそうでもないらしい。
ファンとしてはレインとみどりの行く末が知りたくて堪らず、待ち遠しいことこの上ない。

本作品は映画化もされており、日本映画なのだが、ざっと見たところでは何だよコレ的な感想を持っている。
まずレインの技は空手ではない、柔道だ。空手の方が映像映えするからといって、これはいただけない
(正確には空手ではないらしいのだが、そんなことはどうでもいい)。
何と言うか全体的にマット・デイモンの「ボーン」シリーズのマネをしているとしか思えず、
先ほどから述べているバリー・アイスラーの良い味が全く活かされていない、ただのアクション映画だ。

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