■2015年11月8日:千一夜物語
アラビアン・ナイトとして広く世界に知られている千一夜物語。
その実態はアラブの民話であり、ササン朝ペルシア(3〜7世紀)から
アッバース朝イスラム帝国(8〜13世紀)ぐらいが主な舞台となっている。
地域的には、今のイラン・イラク・サウジアラビアあたりがメインだ。
主人公は架空の人物だが、有名なアッバース朝の第5代カリフ(教主、当時のイスラム帝国の支配者)、
ハールーン・アル・ラシードが登場する話もある。
アラビアン・ナイトと聞いて、名前だけは知っている人は多いだろう。
シンドバッドの冒険やアリババと40人の盗賊の話などは、完全に東西世界に浸透している。
また日本のファンタジーの中では知る人も多い、イフリートは、炎の魔人などではなく、
単なる悪さを働く精(物語中では「鬼神」と訳されている)である。
扉絵のカバー写真だが、実はかなり選んでいる。
アラビアン・ナイトは直接的な表現を含むエロティックな話が多く、
本のカバーの絵も結構えげつないので、どれにしようかとかなり苦労したのである。
アラビアン・ナイトの概要を簡単に紹介すると、
とあるイスラムの王で、若い女と一夜をともにしたあと、その女を殺してしまうという
コマッタチャンがいたため、さる偉い大臣の娘である、
シャハラザートというかなり頭の切れる女が、
自ら王の妻となり毎夜一話ずつおとぎ話を話して聞かせ、
毎晩話が終わるとまだ続きがあるからと刑の執行の日を引き伸ばし、
最後にはイカれた王様もほだされて女を許す、という美談。
俗に言われるようにそのタイトルから、話は1001話あるのかと想像されるが、
実際に世間に伝わっているのは282話とかそんなもので、
岩波文庫版もその通りなのだが、そこは民話のすごいところ。
何世紀も経るうちに尾を付けひれを付け、現代の最新版では1001話まで
完全装備しているらしい。
だから、1回の話としては1巻にも満たないページ数で、
たくさんのおとぎ話が収録されている。
その中には、現在の冒険小説と同じように、英雄もいれば魔物もいて、
魔法を使うものがいたり、商人が出てきて王様をたぶらかしたりと、
現代を生きる我々でも、楽しく読める。
挿絵もたくさん入っていて面白い。
私はこれを学生時代から読み始めた。一、二巻の読了日が残っていないのはそのためである。
一念発起して読み始めたものの続かず、さらにその頃には、
まだ日付を書き残す習慣が身に付いていなかったのだ。
その後、残りの巻を1年半程度かけて読んでいるが、これは1年半かかったわけではない。
間に他の小説を読んだりもしていたはずだ。
今思えば、この頃に読んでいて良かったと思う。
なぜなら、13巻も揃っている書店などなかなかないだろうからだ。
当時も、当然ながらいっぺんに買ったわけではなく、何冊ずつかまとめ買いしている。
私が選んだのは岩波文庫版だが、同書はフランス語版を訳している。
そのため、著者欄にはその訳者の名を書いた。
天文や幾何をはじめとして、中世までアラブ世界の文明は西側より先を行っていた。
今、しょうもない争いを繰り返している愚かな君主が納める国々は、
その昔素晴らしい栄華を誇っていたのである。
また日本にもよくある子供向けのファンタジー世界は、こういった書物に起源を持つものが多い。
たまには亜流であるゲームや漫画から離れて、オリジナルの文学を読んでみるのも良いだろう。