■2021年11月15日:大統領失踪
クリントン米元大統領の作品。
クリントン元大統領といえば、1993年から2001年まで、
ブッシュ前大統領より引き継ぎ、2期に渡って任期を務めた。
その当初は湾岸戦争直後の困難な時代のことゆえ、
さぞ波乱万丈の舵取りであったろう。
夫人のヒラリー氏の政治の世界での活躍は報道でよく目にしたが、
クリントン氏の退任後の活動は大々的には報じられなかったので、
何をしていたのかと思いきや、小説、それも本格的なスリラーを執筆していたわけだ。
著名な共著者がいるとはいえ、
腕前拝見、とはおこがましいが、腰を据えて読んでみることにした。
上巻の前半は政争がらみの話が長く、退屈だったが、
中盤で撃ち合いが始まるや、俄然面白くなる。
下巻の後半はほぼ一気に読んでしまった。
話の内容としては、主人公は現役米大統領で、
話題はコンピューター・ウィルスだ。
それが、テロリスト自体はお約束のイスラムの狂信者なのだが、
政権内に裏切り者あり、背後で糸を引くどこかの国ありで、
まったく展開が読めず、
上述のように上巻の後半以降は目が離せなくなる。
そして、最後の追い込みのところで、予想もしていない結果が待っていて、
見事見破る主人公の大統領の技量に、
クリントン元大統領の作家としての真価が垣間見える。
前述のイスラムの狂信者がトルコ人というのも、
エルドアン大統領の下、急速に西側から離れつつあるトルコに対する、
ささやかな当てつけに見えなくもない。
タイトルの「大統領失踪」は、まあそういうシーンもあるということで、
単なる飾りだ。
というわけで、デビュー作としては大変な快作で、
クリントン元大統領の政治家以外の才能が完璧に開花している。
次作もあるそうなので、期待して待ちたい。