■2012年1月9日:戦争の犬たち
言わずと知れたフォーサイスの名作が小説ブログ第3弾に登場。
映画では第2弾で紹介した「燃える男」にも出演する、クリストファー・ウォーケンの若き日の姿が見られる。
フォーサイスと言えば、「ジャッカルの日」で知らぬ人はいない、諜報小説の巨匠。
物語の最後に大どんでん返し(という言葉を私は好きではないのだが)を必ず持ってくることでも知られる。
私は、姉に「ジャッカルの日」を薦められて読んだのがフォーサイスを知る切っ掛けとなった。
多分、この種の小説が好きな人ならフォーサイスの作品はすべて面白いと感じるのではないだろうか。
私も「ジャッカルの日」を始め「オデッサ・ファイル」も「神の拳」も最近の作品では
「アヴェンジャー」も「アフガンの男」も片っ端から読んだが、最後にはやはりこの「戦争の犬たち」に
戻ってくるのである。
フォーサイスはジャーナリスト出身であり世界中を見てきたことから、赤道ギニアでのクーデターを目論み、
これは実際に実行され途中で頓挫している(阻止されたというべきか)のだが、
本作はその時の経験がベースになっている。つまり、大変ドキュメンタリーチックな作品なのだ。
フォーサイスは言うに及ばず、この分野が初めての方でもぐいぐい読めること請け合いだ。
傭兵などというものは、はっきり言ってドラマや映画や小説の産物であり、
実際傭兵稼業で財を成すことなど、可能性的にスティーブ・ジョブズ並みに儲けることと
同じ位困難なのだが、物語はフォーサイスのリアリティ溢れる筆致で展開する。
さて舞台は今述べたようにこの世のゴミの掃き溜めのような、現在で言えば独裁者ロバート・ムガベに
支配されたジンバブエのようなアフリカの架空の国で、ある企業主が私欲のためクーデターを画策する。
そこで傭兵として白羽の矢を立てられるのが、コンゴ動乱で名を馳せた主人公シャノンである。
ところがこの男、腕が立つだけでなく大変知的でもあり、フォーサイス同様世界の裏側を
さんざん見てきたために、簡単に雇い主の真の意図を見抜いてしまう。
シャノンは作戦を成功させるが、それは雇い主の意図とは異なり、善なる改革であった。
物語はだいたいこのようなものである。
映画も同時期に作られた映画なので、舞台観は殆ど一緒。
いかに当時本書が世間の関心の的となったかが覗える。
映画で一番受けたのはクリストファー・ウォーケン扮するシャノンがザンガロの入国審査に差し掛かった時。
彼は入国係官に別室に連れて行かれ、そこで「エアポート・タックス」として酒・煙草類、ペントハウス(エロ本)を
取り上げられ、さらにそれらの「インポーテーション・タックス」として現金まで巻き上げられるのだが、
ザンガロの係官は現金を制服の胸ポケットにしまいこむ。私は皮肉者ゆえ、このくだりが見ていて面白かった。
私もバンコクで荷物に課金された覚えがある。その係官は私から徴収した500THBを
自分の胸ポケットにしまっていた。つまり、横領したのである。
フォーサイスは本書の刊行後と、あとは「イコン」の刊行後にも絶筆宣言をしているが、
その度にほとぼりが冷めた頃にまた執筆を再開している。
そのうち取り上げてみたいと思うが、最近の作品では「神の拳」につながる作品として「アフガンの男」が面白い。
これは最新刊なのでまだまだ何処でも売っている。私は書店の回し者ではないが、
軍事スリラーがお好みの方は手に取ってみていただいて損はない。