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■2011年12月27日:燃える男

クリックして拡大  原題:MAN ON FIRE (1980年イギリス)
 著者:A.J. クィネル
     A.J. Quinnell/1940-2005 イギリス生
 文庫初版:2000年4月25日 集英社文庫
 第1刷時価格:同上 733円
 巻数:単巻
 品番:ク4-2
 管理人読了日:2001年5月29日
 映画化:2004年、20世紀フォックス映画、アメリカ
 映画題名:マイ・ボディガード
 映画主演俳優・女優:
 デンゼル・ワシントン
 ダコタ・ファニング
 クリストファー・ウォーケン
 ミッキー・ローク
 日本語DVD化:2004年 松竹株式会社

小説ブログ第二弾は、デンゼル・ワシントン主演の映画が沸かせた、「燃える男」である。
本ブログは小説を紹介するものであり映画や俳優の寸評をだらだら書くつもりはないので
先に断わっておく(第一話のアンソニー・クインは特別である)。

著者のA.J. クィネルは以前にも述べたように映画の封切に感想を寄せて、翌年亡くなった。
日本ではそれほどメジャーな作家ではないような印象を受けるが、
80年代から話題の作家だった。若すぎる死が悔やまれてならない。
本書はその処女作であり、刊行当初著者は匿名で発表された。

クィネルは謎の多い作家として知られ、処女作である本書が出版された時点では、
殆ど何も分かっていなかったそうである。
その辺のことについては、前述のリンクにて少し紹介しているのでご参照いただきたい。

映画の結末で主人公は命を落とすが、本家である小説は全5話(4作目までは集英社、
5作目のみ新潮社から刊行)までシリーズ物としてあり、
私がLoTR BfMEのH/Nとして名前を頂戴している主人公”ジョン・クリーシィ”は
全くそんなことはない、著者の死とともにシリーズが閉じた第5話のエピローグでも健在だ。


映画の内容が原作と異なるというのは良くある話。
特に本作品の場合、原作と映画とで20年以上開いているので、
映画は映画で当時の時勢に合わせないと売れないから設定変更は致し方ない。
ここで本シリーズに於けるその辺の違いについて紹介しておきたい。

まず、映画での主人公”ジョン・クリーシィ”は、原作では何話目かは忘れたが
ゴゾ島の自宅に”マーカス・クリーシィ”宛ての郵便物が届き誰かが受け取る描写がある。
私がLoTR BfMEのH/Nに”ジョン”を選んだのは、小説で触れられている彼のファースト・ネームを
思い出せなかっただけである。

主人公クリーシィは映画では単に元傭兵だが、原作の中ではフランス外人部隊員として
インドシナに出征し、その後所謂コンゴ動乱からローデシア独立戦争を戦い、
さらにアメリカのベトナム戦争にも参加して、元部下であり友人でもあるグィドーが結婚したことを経て、
最後にローデシアに戻る。そこで彼の小説の幕開けまでの傭兵としての経歴は終わる。
父の仕事の関係でタンザニアで育ったというクィネルならではの設定である。
クリーシィはまた本作以降のシリーズで二人の妻と養子に取った息子を亡くすという、
悲劇の主人公でもある。要するに、孤独なヒーローというわけだ。

そしてここが私がクィネルという作家の好きなところなのだが、
彼は世人には解説が困難な世の中の恋や戦争や政治といった物事を
きちんと分析し結論することに優れている。
ローデシアで傭兵稼業に見切りをつけたクリーシィの心情描写がまた見事なのだ。

*以下本書より抜粋

ーしかし、死を免れるものは皆無なのだ。彼は自分の行く末を思い、変えようのない帰結を予見した。
ローデシアでなかったら、ほかのどこかでこうなっただろう。
不毛ーそれは彼の過去の墓碑銘にして、彼の明日の修飾語だった。
彼は興味を失ってしまった。大酒を飲み始め、肉体は弛緩し、無気力になった。
ついに、司令部は彼を作戦から外し、一介の顧問へ格下げした。


映画ではこんなことは語られていない。小説より一般多数の人々が見る映画のテーマにするには
あまりにも難解なメッセージだろう。

そして彼は友人グィドーの元を訪ねて行き、ここで小説の物語が始まるのである。
その友人グィドーは名前とともに出自も映画ではまた役割が異なり、傭兵時代の彼の上官となっている。
彼の友人役にはお爺ちゃんになった「戦争の犬たち」のクリストファー・ウォーケンが出演している。
解説シーンでは「今まで悪役ばかりだったのでたまにはいい人を演じたかった」と心情を漏らしている。
おくゆかしい限りである。

長くなってしまったので結びができなくなる前にこの辺で終わりにしたいと思う。
話は皆さんもご存じ映画と大筋は同じである。クリーシィは傭兵から足を洗いブラブラしていたところを
友人からボディガードの職を貰い、その警備対象の少女が自らが付いていながら誘拐・殺されてしまう・・・
(映画では公衆性を考慮し誘拐されるだけだが、小説では凌辱され殺される)
後は映画ではクリーシィが負傷後、思い出の地マルタのゴゾで療養し、
その後復讐に向かうという部分が省かれている。

そうそう、物語の舞台も異なる。映画ではメキシコだが、原作の舞台はイタリアである。
世界中で誘拐や人身売買が社会問題化しているのだ。


要するにクィネルという作家は、アクションも得意だしストーリー・テラーだし博識でもあるわけだが、
彼の真骨頂は透徹した目で世界情勢の真相を物語に織り込む能力である。
「燃える男」だけでなく彼の各著作にそのそれぞれが秘められている。

現在は各話ともに古本で買う以外、手に入り難くなっている。
特に第5話の「地獄からのメッセージ」など、私ですら古本屋で購入した。
シリーズ第一作目である本作は映画化されたこともあり、比較的書店にも置かれているだろう。
しかし、これ一作だけではクィネルの魅力を知ることは出来ない。

本書を通じて、皆さんがクィネルの作品を読んでいただいて、そこから何がしか得るものがれば、
クィネルにとっても手向けとなるだろう。

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関連記事:

作家、A.J.クィネルが亡くなった(何年も前の話だが)。何故そんなことを今頃言っているのかというと、つい先日、遅まきながらTwitterを始めた(未だ使い方が全然分からない)。当HP内にも各所にTweetボタンを搭載したので、是非ご活用いただきたい。■2011年8月5日:A.J.Quinnellの訃報(ずーっと前の話だけど)



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