■2012年6月21日:神の拳
原題:THE FIST OF GOD (1994年イギリス) | |
著者:フレデリック・フォーサイス Frederick Forsyth/1938- イギリス生 |
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文庫初版:1996年11月25日 角川文庫 | |
初版時価格: 上:780円 下:820円 | |
巻数:上下巻 | |
品番:フ6-17,18 | |
管理人読了日:1998年4月20日 | |
映画化:未 | |
映画題名:未 | |
映画主演俳優・女優:ー | |
日本語DVD化:ー |
1990年、イラク占領下のクウェートに、英陸軍特殊部隊SAS (Special Air Service)の少佐が潜入する。
目的は、特殊な兵器−−大量破壊兵器かどうかは定かではないーーの捜索。
そして少佐は一旦帰還したのち、「砂漠の〜」作戦の只中に、今度はイラクそのものに潜入する。
その任務は、先の兵器の破壊である。
物凄く簡単に究極のポイントだけ抑えて要約したが、本書では深遠な背景事情の描写から初めて
詳細に述べられている。世紀の作家、フレデリック・フォーサイスの傑作である。
本作は報道された事実を元に構築されており、ジャーナリストであるフォーサイスならではの力作だ。
ドキュメンタリー性が強く読む者を物語の世界に没頭させる。
本作の核心である”特殊な兵器”ーー冒頭でも述べたーーは、イラクのような第三国が
実際に保有し得るかどうかの可能性において、一般に言われる大量破壊兵器、
いわゆる核や化学・生物兵器などの飛躍した推測と違って、はるかに現実的である。
それでいて兵器としては凡庸なものの発想は斬新であり実用的なものだ。
確固たる意志と確かな実力で任務に挑むアラビア語ペラペラのSAS少佐、
マイク・マーチンを精妙なキャラクター描写でフォーサイスが鮮やかに描く。
常に驚くほどリアルな歴史的・地理的な描写は、まるで中東を旅しているかのような旅情さえ受ける。
またお約束のスパイ的な要素もふんだんに盛り込まれ、その向きにも十二分楽しめる一作だろう。
主人公のマイク・マーチン少佐は少年期をイラクを過ごした、という設定であり、
またスパイとしてもイラクに奥深く潜入することから、イラクの庶民的な生活風景や
圧政に苦しむ国民の姿、警察国家的な禍々しさなどが
かなり細かく描かれており、ここでも国際情勢に通暁するフォーサイスの小説ならではの味わいがある。
日本や西洋の小説はどうしても我々の側が正義の味方的に書かれがちである。
しかしながらフォーサイスは本書の巻末ではっきりと書いている。
見境なく兵器を売りさばく西洋社会の商売根性こそが悪を冗長しているのである、と。
私はイラクのことを第三国と書いたが、私が現在住むタイも同じである。
いや、百歩譲って未だ外の世界に親密なこの国は第二世界の部類に入るだろう。
しかしながら言いたいことはこういうことだ。
我々は余所の国の風土や風潮、国民性というものを知る必要がある。
商売人は物を売る際に、相手に売りやすいようにターゲット層を定めたり、
相手に合わせて商品をカスタマイズしたりするだろう。国内向けやどこどこの国向け、というように。
言葉はおろか文化も分からないのだから、相手の心を知ることが大切なのである。
アメリカはイラクで日本型の統治が可能と考えたが、それが出来なかった。
何故か?
要は、この人達(イラク国民)というのは、自分達が悪いとは思っていないのである。
日本人は勤勉で実直な民族として世界的な評価を得ている。
我々の場合、歴史の授業で昔同胞に悪徳な指導者がいたと教えられたら、
そいつはとんでもない野郎だし、2度と同じ過ちを繰り返してはならないと考えるだろう。
だがイスラム教国で、例えばイラクあたりではそんな教育はされていないのかもしれないし、
国民は例えそんな事実を突きつけられても、「違う」と拒否してしまうのである。
それが国民性というものであり、アメリカやイギリスを一言でお節介と言うのは簡単だ。
だが国際的な波及範囲を考えると好きなようにさせておくわけにもいかないし、
やり方は困難を極めるだろうが、それを実行しようとしている人々を非難することは出来ない。
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