■2012年8月27日:千年紀の墓標
トム・クランシーは長編というかシリーズ物を得意とする。
その中でも、一番面白いのが本シリーズだろう。
何しろ、主人公ロジャー・ゴーディアンはあるアメリカ企業の社長であって、
CIAの長官でも合衆国大統領でもなく、何処かの特殊部隊の戦士とか、
そういう無難な設定でもない、絶妙な設定なのだ。
同じくサラリー・マンとして企業戦士である我々も共感を覚える。
本書は冒頭の紹介欄に記載したように全9巻であり既に完結している。
シリーズは防衛・民需双方の通信機器を開発するアップリンク・インターナショナル社の社長、
ロジャー・ゴーディアンを主人公とし、同社が社の一部門として持つ私設保安部隊<剣(ソード)>の
登場人物達を中心にストーリーが展開する。
私設保安部隊というのは準軍に他ならず、どうしてそんな組織が一企業内にあって存続し得るのか
我々日本人には理解の及ばないところだが、その彼らが世界各地の事業展開先で待ち受ける
様々な脅威との戦いを描く。
爆弾テロだったり、株式の乗っ取り、細菌兵器だったりと各話毎に相手を変え、
まあ良くこれだけ思い付くよ、と言いたくなるほどだ。
仮にロジャー・ゴーディアンの会社か、その保安部隊<ソード>が狙われていたにせよ、だ。
物語は各話を通じて共通の敵が相手だったり、そういう相手が登場したりしなかったり、
或いは謎を残したまま消え去ったりと、各話ともにマイアミ・バイス的な中途半端な終わり方をする。
この辺はアメリカのスリラーらしい。
また最終話となる第8作目も、スッキリした終わり方ではないものの、
一応この会社の戦いは未だ続く、みたいな終わり方をしており、
シリーズものらしくドキュメンタリー・チックに描かれている。
クランシーの作品は登場人物が良い。
まず、善物の登場人物全てがアメリカン・ヒーローよろしく正義感の塊なのはお約束。
本作品にしても登場するのは企業が舞台の作品だから企業の重役達になるのだが、
副社長のメガン・ブリーン、リスク査定部長のヴィンス・スカルに
<ソード>部隊の隊長、ピーター・ナイメク。その部下のマックス・ブラックバーン。
マックスは個人的には好きだったんだけどね...
まあもちろん第一作だけでは細かいところまでは分からないし、これらの登場人物達の
人となりが分かってくるのは回を重ねてからになるが、それぞれのキャラクターが良く書かれており、
役割分担まで出来ているのは企業ならではである。
このシリーズの登場人物達はピートにせよメグにせよ、やけに行動が(部長だの副社長だのにしては)
若々しいのだが一体いくつの年齢設定なのだろう?
本シリーズを私は現役で読んでおり、毎年新作の登場を今か今かと待ち兼ねていた。
確か途中で一回、全6作だったシリーズが8作に延長され、かなり喜んだのを覚えている。
後書きで”エンターテインメント”などどいう書き方をされていることがあるが、
本書にはその賛辞がピッタリである。間違いなく面白いので、読んで損は無い。
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