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■2012年11月4日:影の傭兵部隊、出動

クリックして拡大  原題:THE MERCENARY OPTION (2003年アメリカ)
 著者:ディック・カウチ
     Dick Couch/1943- アメリカ生
 文庫初版:2004年10月31日 ハヤカワ文庫
 初版時価格: 940円
 巻数:単巻
 品番:カ14-1
 管理人読了日:2005年7月17日
 映画化:未
 映画題名:−
 映画主演俳優・女優:
 日本語DVD化:

ディック・カウチの作品は日本では本作しか翻訳されていない・・・と思いきや、
最近翻訳された共著が映画化されているらしい。
そのことからも分かる通り、元SEAL出身の著者の腕は確かで、
本書もなかなかリアルな戦争スリラーに仕上がっている。


9・11の世界貿易センタービルで息子を亡くした元駐ロ大使が、
息子の仇ではないが私設の対テロ組織を創設する。

そのメンバーを構成するのは、隊長に
負傷が元でSEALを退役した元上等兵曹(多分、陸軍でいう曹長)のギャレット・ウォーカー、
同じく訳あって引退した元英国陸軍グルカ連隊の最先任上級曹長、ビジェイ・グルング。
同部隊は本書の意向だろうが、同じような経歴の人間を集めている。

そして残りの隊員は全てグルカ兵。
グルカ兵というのは、広義ではネパール人兵士のことである。
小柄だが敏捷で且つ粘り強く、ことに歩兵としては非常に勇猛な兵士であると一般に言われている。
英国は昔その辺を統治していたので、戦争が終わった後もグルカ兵を正規軍として雇用し続けている。
同様の事は何処の国でも似たような形で行われているが、正規軍として採用しているところが
紳士の国イギリスらしい。
クークリ・ナイフを好んで携帯する、と言えばイメージが沸く方も多いだろう。
また「グルカ」というのはインディアンの部族の名前とは違う。
サンスクリット語で「牛を守るもの」という意味らしいが、
戦争当時、イギリスがネパールのことをそう呼んでいたことに由来するらしい。
日本が「サムライの国」みたいな言われ方をするのと同じである。
グルカ兵はこのような組織を構成する隊員としては、うってつけだろう。


さて少し話が脱線したが、この元駐ロ大使が創設した”傭兵”達は、
ハワイを拠点にギャレットとビジェイの元で、訓練を積んで行く。
そして部隊は初任務として、サウジアラビアを元凶とする
核爆弾の流出を阻止するためイランに向う。
アメリカの小説らしく、何だかんだの紆余曲折の末、
そんな彼らの行動も政府から「軍隊」として正当なお墨付きが与えられる。

本書で最も印象深いのは、テロを実行するため黒幕が”テロを発注する”、
言わばテロのコーディネイターのような人物の生活が描かれている点。
地中海の夕日が良く見えるヴィルフランシュの別荘に愛人と共に住み
(ページによっては”妻”との表現もあり)、電子メールを駆使してテロを陰で指揮する人物だ。
私が以前想像を述べたように、現代のテロリズムの裏側が垣間見えて興味をそそられる。
著者は元特殊作戦のプロだから、あながち想像の域を出ない、というわけでもないだろう。

このテロリストの中間管理職は一読するととんでもない糞野郎だが、
そんな下衆でも自分の愛人(妻)に関しては見習うべき考えを持っている。

「彼女が幸福に思ってくれているのも彼には大いなる喜びだった。
彼女はすばらしい女性であり、温かく手を差しのべ、幸せにする義務が彼にはある。」


本書は間違いなく”傑作”であり、私など何回も読み直した。
ディック・カウチは本国・アメリカでは既に何冊も小説を出版しているようだが、
同氏の他の作品も日本で翻訳されることを望んで止まない。

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