■2019年5月19日:アメリカン・アサシン
著者は既に亡くなっている作家で、本作は刊行年も結構前だ。
映画化を前に邦訳されたらしい。
それで、本作の主人公、ミッチ・ラップが登場するシリーズは、
ボブ・リー・サーガのように順番を前後して書かれたらしく、
本作がミッチ・ラップが工作員として採用された、
スタート時点での作品になるらしいのだが、
どうも、刊行順では後の方になっている。
本書の舞台は中東・レバノンである。
西側を代表する主人公ラップの相手は、
お決まりのイスラム系の犯罪組織だ。
但し、ISISとか、アルカイダではない。
ヒズボラで、本書ではイスラム聖戦機構と訳されているが、
テロの世界ではアルカイダ等よりよほど先発の組織で、
83年にベイルートのアメリカ大使館を自爆破したり、CIA支局長を誘拐したりしている。
ハイジャックも実行している。
かなりのワルだ。
さて、主人公ラップはこういった組織と戦うため徴募・訓練されるが、
たいして任務をこなさないうちに、自身のスパイの教えの師匠である人物を誘拐され、
救出に立つことになる。
但し誘拐された人物も、かなりのページを割いて語られているだけに、筋金入りのプロだ。
敵の拷問も何のその、拷問を逆手にとって自身に有利なように進めてしまう。
この手の小説を読み慣れている方でも、尋問・拷問のシーンで、
こういう展開はあまりお目にかかったことがないだろう。
実は、私は小説も上下巻とか少し長そうな作品の場合、
読み始めるまで待ちきれない際など、ちょろ、ちょろっとページをめくっては
”つまみ食い”してしまうのだが、
その時に誘拐・拷問が骨子であることは読み取れたので、
何だまた拷問か、とがっかりしたものだ。
というのは、拷問のシーンなど(気持ち悪いとかは別にして)することは拷問しかないので、
退屈してしまうことが分かり切っていたからだ。
そこへきて、実際に最初から読み進めたところ、この展開である。
なかなか、こういう切り返しを持ってくる作家はいない。
著者は物語りが巧みで、通して読んでしまうこと請け合いだ。
亡くなっているとはいえ、シリーズは別の作家が引き継いでいるらしい。
日本でも続けて刊行されることを期待したい。
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