■2020年5月11日:第九軍団のワシ
原題:The Eagle of the Ninth (1954年イギリス) | |
著者:ローズマリー・サトクリフ Rosemary Sutcliff/1920-1992 イギリス生 |
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文庫初版:2007年4月17日 岩波少年文庫 | |
第11刷時価格: 2019年7月5日 840円 | |
巻数:単巻 | |
品番:579 | |
管理人読了日:2020年1月17日 | |
映画化:2011年 英米合作 フォーカス・フィーチャーズ | |
映画題名:The Eagle | |
映画主演俳優・女優:チャニング・ティタム ジェイミー・ベル ドナルド・サザーランド |
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日本語DVD化:パラマウント ジャパン |
ローマ軍 第九軍団といえば、カエサルの子飼い中の子飼いである軍団をルーツに持つ。
後年、この軍団がブリタニアで壊滅する、というのは史実らしく、
117年、ブリガンテス族によってであった。
第九軍団は、この部族の蜂起によって壊滅するのである。
ちなみに、英語で山賊を意味する「brigand」は、ブリガンテス族が語源であると言われている。
本書の舞台は、ハドリアヌス防壁があり、アントニヌス防壁も地図には書かれているのだが、
アントニヌス防壁が築かれたのは142年以後であり、
主人公マーカスの父が前述の第9軍団の大隊長職にあって戦死したのが12年前とあるので、
117に12を足して129年とすると、若干時間軸はずれるが、まあそのあたりの出来事、
ということなのだろう。
ローマ帝国、最盛期の頃である。
主人公のマーカス(ラテン語ならマルクスというところか)は第2軍団だか第4軍団だかは
はっきりしないのだが、百人隊長としてブリタニアの辺境防備に大隊とともに派遣される。
ローマ軍団とは、紀元前104年に、時の執政官マリウスによって
志願制に変更された後、1個軍団は6,000兵と定められた。
(それ以前は4,500兵)
そしてさらにアウグストゥス帝の時代には、6,000は10個の大隊に分けられ、
各大隊は第一大隊のみ160名の百人隊6個、残りは80名の百人隊6個を隷下に持つと定められた。
これに、さらに騎兵や本部小隊、工兵みたいなのが付いて6,000兵になる。
マーカスは筆頭百人隊長、とあるので第一大隊の百人隊長、ということになる。
ローマ軍はこの時代、ブリタニアには3個軍団を守備に置いていた。
しかし、3個軍団で守り切るにはブリタニアの領土は広い。
そこで、これは各方面で行われていたことなのだが、
境界線沿いに砦を配置し、軍団は後背地の複数の砦を守備範囲として、
砦と軍団基地間を繋ぐ見張り台で上げる狼煙によって、
蛮族の侵入があった砦に軍団が救援に向かう、というシステムを採っていた。
マーカスが派遣されたのは、この砦の守備隊のひとつなわけだ。
この辺の知識が分かっていると、本書はとてもリアルに描かれているのが分かる。
さてマーカスは派遣された先で、蛮族の襲撃を受け、
隊長として勇ましく戦った結果、負傷してしまう。
そして後送され負傷が元で脚が不自由になってしまい、軍は退役。
同じく元兵士で退役後、ブリタニアの地で暮らす叔父アクィラの家に厄介になる。
そこでひょんなことからエスカという名の奴隷を得たり
(彼は奴隷になる前にマーカスの父の第9軍団を見ていた)、
アクィラ叔父の友人の軍団司令官が訪ねてきて、第9軍団の消息について聞いたりなど
しているうちに、消えた軍団の調査に出掛けたくなってくる。
本書の設定では第9軍団は壊滅時、
軍団旗(マーカスの叔父の名がアクィラとなっているが、アクィラはラテン語で鷲、
ローマ軍では軍団旗そのものをアクィラと呼んだ)も奪われており、
父の最期も分かっていないことから、マーカスはいてもたってもいられなくなる。
そしてついに決心したマーカスは、奴隷の身分から解放したエスカとともに、
目医者に偽装しブリタニアでも北のカレドニアに向かって旅立つ。
雄大なブリタニアの大自然と、不思議なゲルマン人の習俗や風習を経験する二人。
途中、元ローマ軍の離散兵にも会い、ゲルマンの神秘的な儀式も間のあたりにし、
ついに二人は”ワシ(軍団旗)”を見つける。
多大な苦労と困難の末、追っ手を振り切って
マーカスは持ち帰った軍団旗を、叔父の友人の軍団長に託す。
マーカスとエスカはお隣に住む可憐な少女コティア、エスカが拾ってきて
マーカスと二人で手なずけたオオカミの”チビ”とともに吉報を待つのだった。
面白くて3,4日で読み切ってしまった。
詳細に描写された風景や当時の時代背景だけでなく、
2,000年近く前の人々の生活などが目前に迫ってくるようで、
リアルなどというレベルではない。
これは2,000年前の視点に立たなければ、絶対に書けないことだ。
児童文学どころか、40過ぎの私が読んでも、深く心に突き刺さる一作だった。
後日譚だが、
ローマは410年、時の西ローマ皇帝デブのホノリウス帝の時代に、
ブリタニアから撤退している。
理由は簡単。ゲルマン民族の大移動に抗しきれなかったからだ。
この後ブリタニアはユトレヒト半島から来たサクソン人・アングル人によって占領される。
「イングランド」とは、アングル人の住む島、という意味である。
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