戻る

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

■2012年1月18日:鷲は舞い降りた

 原題:THE EAGLE HAS LANDED (1975年イギリス)
 著者:ジャック・ヒギンズ
     Jack Higgins/1929- イギリス生
 文庫初版:1981年10月31日 ハヤカワ文庫
 第25刷時価格:1994年7月31日 700円
 巻数:単巻
 品番:NVヒ1-1,19
 管理人読了日:1997年5月27日
 映画化:1976年、ITC ENTERTAINMENT、イギリス
 映画題名:小説と同題
 映画主演俳優・女優:
 マイケル・ケイン
 ドナルド・サザーランド
 ロバート・デュバル
 日本語DVD化:2001年
 株式会社 東北新社

ジャック・ヒギンズは私の大好きな作家である。
最初は友人に映画を「あれ面白いよ」と薦められて映画とともに原作も読んだような覚えがある。
というかナヴァロンの要塞もそのパターンだったのだが、今頃彼は元気だろうか(オイオイ、ごめんねK君)。
ところで本書には「完全版」もあるが後付けであり、何が違うのか今となっては私も覚えていない。

ヒギンズは初期の作品では第2次世界大戦のヨーロッパ戦線を舞台とした作品を得意としていて、
やはり初期の作品は今読んでも面白いのだが、
何と言っても映画化もされ大ヒットしたのがこの作品、「鷲は舞い降りた」。
封切後、各種メディアが色々な形でマネをした。

タイトルからしてドラマチックなのだが、ヒギンズという作家はドラマチックな作品が大の大大大得意なのだ。
以下はとある作品(鋼の虎)の訳者あとがきからの引用だが、
「逆境のなかで自分の信念に従って生きる男」
著者の作品の登場人物たちは皆一様にこのような男たち(女性キャラクターも)ばかりであり、
「鷲は舞い降りた」でもそういったキャラクター形成の片鱗が覗える。

もちろん最初からではないのだが、ヒギンズ作品は登場人物が後の作品に色々な形で再登場する。
それも、くどくはなく、そのさりげなさが良い。
「鷲は舞い降りた」の二人の主人公のうち、クルト・シュタイナは本書の続編「鷲は飛び立った」のみだが、
もう一人のリーアム・デヴリンは様々な作品に”出演”し、愛想(?)を振りまく。

降下猟兵(ファルシルム・イェーガー)部隊の中佐、クルト・シュタイナ、
そして元IRAのテロリスト、リーアム・デヴリン。
前者はもちろん、「立派な軍人」を地で行くような素晴らしい人物。後者がまた憎めないキャラクターで、
紹介文に書いた通りの悪党ではなく、根は善人、というか実は悪を許せない正義のヒーロー。
そりゃ、まあ、昔はワルだったけどさ、というような人物。
映画でもマイケル・ケインとドナルド・サザーランドらがこの二人を好演する。
それは小説から出てきた主人公たちの丸写しで、当時それはもうフィーバーした。
ドナルド・サザーランドに至っては、デヴリンの名台詞「俺は世界で最後の冒険家だからだよ」まで吐いてのける。
小説の映画化で映画が原作を超えるのは難しいが、本作品はなかなかどうして良い味を出している。
噛めば噛むほど味が滲み出てくる、といった感じである。


さて、では物語を簡単に紹介すると、時は第2次世界大戦のドイツ/イギリス。
ロシア戦線から帰還途中のクルト・シュタイナ中佐とその部下たちは、道中列車が停車した際に
ナチス親衛隊のユダヤ人狩りの現場に遭遇し、図らずも一人の少女の命を救おうとし、
それが元で軍法会議にかけられ辺境の地で自殺任務に就いていたが、
親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラーによりイギリス首相の誘拐を命じられ、
部下たちとともにイギリスに降下する。
リーアム・デヴリンは彼らの偽装身分を側面から支援する。
部隊はポーランド軍部隊の訓練を装い機を窺うが、演習中にまたも人道的な行為が裏目に出、
偽装が発覚し作戦は失敗に終わる、というストーリーなのだが、
物語は戦士であるシュタイナと、スパイであるデヴリンが助け合いながら進行する。

登場人物はミリタリー・パートのクルト・シュタイナも良いが、彼は所謂「ヒーロータイプ」の人物で
今作のみの登場(後述する続編もあるが)であり、何と言っても
リーアム・デヴリン(現在のヒギンズ作品ではその味はショーン・ディロンが受け継いでいるが)、
この人物が良い。ニヒリズムに溢れ、別の作品(黒の狙撃者)の解説によれば、「ロマンチックな愚か者」。
何しろこの人物の描写が

ー「唇の端が常に持ち上がっており、それは人生とはお笑い草だと悟った人間の顔だ」

というから堪らない。最近の作品では現代が舞台の作品に登場し、他のキャラクターに「不良じじい」と形容される。
そして多才な彼のさらに隠れた才能に”犬マスター”能力がある。飼い犬でも軍用犬でも
たちどころに手なずけてしまうのだ。こんなキャラクターなら、愛さずにはいられない。
かくいう私も、こんな人物の生き方を”マネ”しているつもりなのかもしれない。


結果は分かっていても、ひた向きに与えられた任務、というよりは自分の信条に従って生きる。
そんな男臭い人物たちが活躍する。それがヒギンズの作品だ。

ヒギンズは”良作”を”量産”することでも知られ、読み応えのあるミステリー小説を次から次へと発表している。
齢80歳を過ぎた現在でもその筆は衰えることなく、新作を書き続けている。

前述のように本書には「鷲は飛び立った」という続編がある。
内容は、ズバリ”シュタイナ中佐は生きて捕えられている”。
これだけでもファンにしたら垂涎もので、「鷲は舞い降りた」を読んだ読者なら
早く読みたくて堪らなくなること請け合いだ。


ところでヒギンズ作品は近頃あまり日本語に翻訳されていない。
最近の作品はシリーズ(ショーン・ディロン・シリーズ)化しており、
ストーリーもややマンネリ化の傾向があって面白みが減ってきているのだが、
それでもファンとしてはやはり読みたい。早急な翻訳を期待したい。

Tweet



戻る