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■2012年2月2日:極大射程

クリックして拡大  原題:POINT OF IMPACT (1993年アメリカ)
 著者:スティーヴン・ハンター
     Stephen Hunter/1946- アメリカ生
 文庫初版:1999年1月1日 新潮文庫
 第5刷時価格:1999年3月20日 上・下とも667円
 巻数:上下巻
 品番:ハ16-5
 管理人読了日:2003年3月5日
 映画化:2007年、パラマウント映画、アメリカ
 映画題名:THE SHOOTER
 映画主演俳優・女優:
 マーク・ウォールバーグ
 マイケル・ペーニャ
 日本語DVD化:2007年
 パラマウント ジャパン株式会社

スティーブン・ハンターはその著作が全て時系列的に繋がっているということで名を馳せている作家だ。
しかも凄いところは、順番に発行されているわけではないところである。

私も初めて読んだのは「狩りのとき」で、最初何だか良く分からなかったのだが、
アール・リー・スワガー・シリーズや「ブラック・ライト」、そして本書を読むにつれて、次第に内容が分かってきた。
ダーティホワイトボーイズ」や「クルドの暗殺者」までストーリーが繋がっているのには驚かされる。
だが最も秀逸なのは本書である。

ハンターもまた物語に意表を突く展開を織り込むことで知られているが、本書はその中でも
他作品に類を見ないほどその要素が大きい。何しろ大どんでん返しは最後だけではないのだ。

アーカンソーの田舎者、ベトナム戦争でボブ・ザ・ネイラー(釘打ちボブ)と呼ばれた男が全編に渡って
驚愕のアクションの数々をやってのける。


本書は文句無しに面白い。

ベトナム戦争に従軍した退役一等軍曹であるボブ・リー・スワガーは、
ベトナム戦争帰還兵の例に漏れず心に傷を負い、人との接触を避けて静かに暮らしていた。
そこへ、政府機関の所属を名乗るとある大佐が現れ、アメリカ大統領暗殺が計画されているとの情報の元に
ボブにその暗殺場所や方法を探るよう依頼するが・・・

ボブは独特のスナイパーとしての嗅覚から、その話に胡散臭さを感じるも彼らに協力し、
結局彼の危惧通り先の大佐の話は真っ赤な嘘っぱちで、
実はアメリカ大統領ではなくエチオピア大使の暗殺が目的だったのだ。
ボブは重傷を負い、濡れ衣を着せられ逃走する羽目に陥る。

ボブは物事の順序を心得た人物で、借り物の銃の零点規正を自分で行うことを要求する。
零点規正というのは、銃とスコープの照準が予定の距離で軸線が交差するように設定することだ。
要するに自分の目で見てから判断しないと信用できないということで、
何事もそうだが例え他人がOKだと言ったところで、仮にそれが正しかったとしても、
その人と自分の考えは異なるわけで、ある人の脳味噌の中身は自分のそれの中身とは違うのだから、
物事を完全に理解することは出来ない。

細かいことに聞こえるかも知れないが、こと1km先の標的を銃で撃ち抜くとか、
そういう微妙な行為にはこういった些細なことが間違いなくある種の”ズレ”を生じさせる。

この時は、依頼する側からそれを明かされていたこともあり、
ボブは引き受けるが、成した途端、自分がはめられたことを知る。

ところが罠を仕掛けた側の誤算は、ボブが落ちぶれた退役兵で単なる田舎者と過信したこと。
実際にはボブは実に抜け目のない男で、とてもではないが並の人間には出し抜けない、
ということが判明した時点で時既に遅し。陰謀は暴かれ、白日のもとに晒され、正義は成される。
ボブは向かうところ敵なしで、来る危機全てをさらりと乗り越えてみせる。この爽快さが良い。


これがボブ・リー初登場の作品ではないのだが、
スワガー・サーガとしてもはやシリーズ化しているこのシリーズ。
スワガー家は海兵隊一家で、WWIIの沖縄で歩兵として一旗揚げ、
その後警察官として殉職した父・アール・リー・スワガーと
ベトナムで名を挙げた本書の主人公で、スナイパーである子・ボブ・リー・スワガー。
最新作ではさらにその後継者登場みたいな展開になっており、
ハンターの作品では以前にもおめでた婚まがいの伏線があり
私は少々うんざりしたのだが、迫力満点の物語は依然健在である。

映画はマーク・ウォールバーグがボブの分身として相応しくないとまでは言わないが、
小説ほどの迫力はない。何しろ、映画ではM4ライフルで戦うシーンがあるが、
小説ではボブはエルサルバドルの空挺レンジャー部隊を相手に、
装弾数5発のボルトアクション・ライフル一丁で戦い、全て血祭りにあげているのだが、
そんなもので実際に速射するのは不可能なのだろう。

ボブがベトナム帰還兵では無く、現代の特殊部隊出身というのもいただけない。
ベトナム戦争というのは、若い世代には分かりにくいだろうが
その時代背景もあって、政治に踊らされた兵士達が無駄だと知りつつ、
ひた向きに任務を全うする姿が堪らなく哀愁を誘うのである。

映画とは普遍的に作られるものであり、本作の場合、例えば冒頭で
ボブが悪役の車のナンバー・プレートを撮影するシーンがあるが、そんなことは小説では行われていない。
しかし、映画を見る一般の観客にはそれは分かりやすい行為だし、映画とはそういったものなのだ。


ところでボブの愛銃はウィンチェスター 64年以前のモデル70 .270口径と、
作中で使用されるのはレミントン 700V 7.62mm これは即ち海兵隊のM40であり、
レミントン 700Vは陸軍ではM24とされているが、アメリカの軍用狙撃銃は遡るとM14→M21であり、
今後はナイツ・アーマメント社のM110に更新されていく運命だ。
更新の理由が自動式のライフルの方がボルトアクションよりも生存性が向上するとのことだが、
ボブのような射手なら話は別かもしれない。


蛇足だがハンターの作品は新潮文庫と扶桑社ミステリーと両社から刊行されており、
最近の作品はみな扶桑社ミステリーから刊行されているが、
両社でストーリーが繋がる作品が跨って刊行されているので、
続けて読まれる場合などは注意していただきたい。

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