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■2021年5月16日:辺境のオオカミ

クリックして拡大  原題:Frontier Wolf (1980年イギリス)
 著者:ローズマリー・サトクリフ
     Rosemary Sutcliff/1920-1992 イギリス生
 文庫初版:2008年10月16日 岩波少年文庫
 第2刷時価格: 2015年5月15日 760円
 巻数:単巻
 品番: -
 管理人読了日:2020年6月26日
 映画化: -
 映画題名: -
 映画主演俳優・女優:
 日本語DVD化:

古代ローマのブリタニア、最北部で守備に就くローマ兵を、
著者は「辺境のオオカミ」と名付けた。
理由は簡単だ。
彼らが野生の男たちだったからだ。

イギリスの女流作家、サトクリフの「古代ローマ 4部作」中の、
最終作である。


今回も舞台はブリタニアで、アントニヌス防壁とハドリアヌス防壁の
中間地帯を担当するローマ兵の物語だ。

時はコンスタンス帝の時代というから、4世紀中ごろ。
このコンスタンス帝というのは、大帝コンスタンティヌス(1世)の息子のうちの3男で、
彼らは長男コンスタンティヌス2世と次男コンスタンティウスを含めた3人で、
帝国を分割統治することにし、ブリタニアはコンスタンティヌス2世の担当だった。

本当は他に甥などもいたのだが、殺された。
コンスタンティウスが殺したらしい、と言われている。

さて、兄弟で帝国を3分したのだが、彼らは兄弟げんかを始める。
まずコンスタンティヌス2世が帝国中部を治める
コンスタンスの領地に攻め込んだが、敗北して誅殺される。

勢いブリタニアを含む北部はこれでコンスタンスの支配下に入ったわけで、
本書はこの時代を舞台にしていると思われる。
また、3兄弟のうちで武勇に最も優れていたのはコンスタンスだったらしい。

そして、物語に関係ないがこの後のことも書いておくと、
前述の状況から10年余りが過ぎたころ、コンスタンスは配下に暗殺される。
武勇に優れる将は、内政には明るくなかったらしい。
皇帝としては無能、と考える向きがあったようだ。

残された次男のコンスタンティウスは、東方から、離反した西方に軍を向け、平定する。
こうしてコンスタンティウスは、皇位に登り詰めた。
だが、この人物はとんでもない暗君だったのだ。


・・・とまあ、みなさんにはその歴史の真実は興味あれば
後でご自身で調べていただくとして、肝心の辺境のオオカミだが、
主人公のアレクシオスはやはり「アクィラ」一族の血を引いており、
本作の場合、明確に前作「銀の枝」の家系の生き残りが、
軍内部の上司として存在し、主人公を影より支えてくれている。

帝国末期の対蛮族最前線として、
アレクシオスはブリテンから撤退しつつある、
ローマの廃退を少しでも遅らせようと奮闘する。


歴史としての古代ローマは、その衰亡のあらましや全体像なら、
我々はいくらでも知ることができる。

しかし、その中にあって、その文明圏で生きる人々の中に主人公を置き、
この一大帝国の辺境を克明に活写する著者の手腕は、死後も色褪せていない。


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