■2014年2月14日:悪徳の都
原題:HOT SPRINGS (2000年アメリカ) | |
著者:スティーヴン・ハンター Stephen Hunter/1946- アメリカ生 |
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文庫初版:2001年2月28日 扶桑社ミステリー | |
初版時価格: 上下巻とも781円 | |
巻数:上下巻 | |
品番:ハ19-8,9 | |
管理人読了日:2002年12月12日 | |
映画化:未 | |
映画題名:未 | |
映画主演俳優・女優:ー | |
日本語DVD化:ー |
スティーブン・ハンターの最新作の主人公はレイ・クルーズで、
そのちょっと前の最近の作品ではその父ボブ・リー・スワガーが主人公だが、
さらにその父、アール・リー・スワガーを主人公とするシリーズがある。
それは「悪徳の都」・「最も危険な場所」・「ハバナの男たち」の3作であり、
これらはアール・スワガー・3部作とも呼ばれる。
今回はその中から、最初の作品である「悪徳の都」を紹介する。
作品数として最も登場作品の多いボブ・リー・スワガーは、知らずもがな元海兵隊一等軍曹であり、スナイパーである。
彼が登場するシリーズはまた、ボブ・リーの卓抜した能力ゆえスワガー・サーガとも言われる。
ハンターはスワガー・サーガを先行して上梓し、作中で父であるアールに関する逸話等が紹介され、
その後にアール・シリーズが上梓されると、その整合性の精度を各方面から称賛された。
この辺がハンターの作家としてというより、卓越したエンターテイナーである才能だろう。
さて本書の主人公でありボブ・リーの父であるアール・リー・スワガーは、
第2次大戦で日本軍と戦った元海兵隊先任曹長。
その能力は息子のボブと異なり狙撃能力よりも近接戦闘能力に優れている。
硫黄島での戦いぶりは後年の作品「四十七人目男」でも紹介されている。
本書でアールは、退役後名誉勲章の授与式で、とある郡警察官及びFBIの大物要員から、
無法者を討伐するため若い警察官の訓練を依頼される。
FBIの伝説的な英雄、D.A.パーカーとともに、改造型ガヴァメントによる
コックト・アンド・ロックト(撃鉄を起こしてセイフティをロックした状態)及び
トンプソン・サブマシンガン(トミー・ガン)の扱い方を連日新米警官たちに叩き込む。
このトミー・ガンはオープンボルト方式(ボルトの後退によってのみ発砲が可能になる)の自動火器であり、
オープンボルト方式は現代のH&K社の自動火器等でも多く採用されているが、
クローズドボルト方式と異なり、引き金を引いてからボルトが前進し、発砲手順を踏む方式で、
弾丸を装填した状態での火器の暴発防止に有効な反面、落下時の暴発に弱い等の欠点がある。
またオープンボルトでは冷却に有利だが、コックされた状態で排莢口が開いているので、
ボルトが汚れやすい等の特徴がある。
(クローズドボルトの場合、発砲後ボルトが後退・次弾を薬室に装填し、次の発射に備える。
この時、オープンボルトでは次弾を薬室に装填しない。
要するに、オープンボルト方式とは発砲後薬室に弾丸が残らず、
装填された弾倉が装着されていなければ発砲できない仕組みである)
ハンターは銃に造詣が深い人間らしく、この辺の解説がさりげなくもしっかりしており、
その作品はアメリカでもガン・マニア垂涎だろう。
アメリカでは銃社会が犯罪の温床になっているが(ご存知の通り、銃とは持っていれば撃ちたくなるものだ)、
本を読むことに害はなく、何もここでその問題を取沙汰すことはない。
アールはこの後悪党一味を壊滅させるが、ここでもまた彼の父の死に関する真相が明らかになる。
本作で登場するアールの部下、フレンチー・ショートは本書より先に上梓されている「クルドの暗殺者」でも、
CIAの要員としてちょろっと噂話程度に登場しており、ハンター作品はのめり込むと怖い、という良い一例となっている。
もっとも、ごく最近の作品ではその傾向も薄れてきてはいるが。
それにしてもこうして見てみると、ハンター作品はまるでスワガー一族の系譜のようだ。
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