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■2014年2月26日:カリブの失楽園

クリックして拡大  原題:THE DECEIVER (1991年イギリス)
 著者:フレデリック・フォーサイス
     Frederick Forsyth/1938- イギリス生
 文庫初版:1993年3月10日 角川文庫
 第6版時価格:1996年2月20日 480円
 巻数:単巻
 品番:フ6-16
 管理人読了日:1998年6月28日
 映画化:未
 映画題名:未
 映画主演俳優・女優:ー
 日本語DVD化:ー

長編小説が十八番と思いきや、意外と短編も面白いのがヒギンズとフォーサイスだ。
私がこの手の小説に入り込んだのは、この両者からだった。
中でもフォーサイスは、短編集の4部作という面白い試みをしている
(というか、翻訳時に分割したようだ)。
それが、本書を最終巻とするマクレディ・シリーズの4作、
「騙し屋」、「売国奴の持参金」、「戦争の犠牲者」、「カリブの失楽園」だ。

この4作を通して読んでみても、やはり一番秀逸なのが本書、「カリブの失楽園」だと思う。
それもそのはず、本シリーズは冷戦後の世界を生きるスパイに送るレクイエムの、
最後を飾る作品なのだから。


本シリーズの主人公、サム・マクレディはSIS(英秘密情報部)のスパイ・マスターだ。
1990年、イラクのクウェート侵攻直前が舞台の本書では、最初に書いた通り冷戦が終わり、
予算削減が課題の英国政府の方針により、対ソビエトを主眼とした工作部を預かる部長である
マクレディが、まずはその”早期退職”の槍玉に挙げられる。
現場の叩き上げであるマクレディは、優秀ながらその歯に衣着せぬ物言いと、
組織を縦断するスタイルの独断専行がエリート組に煙たがれていたのだ。
今までは、強大なソビエトの脅威の手前、何はともあれ結果を出すマクレディに
皆一目置いていたのだが、冷戦が終結した途端に、掌を返したように意趣返しに至ったのだ。

マクレディは、当然のように抗議として聴聞会の開催を要求する。
本シリーズはその会議の席での彼の功績を振り返る意味で、4つの例として同数の物語を
回顧する形で幕を開ける。


その最終作である本書は、推理小説の形を取っている。
休暇でカリブ海のとある小さな英国統治領の島を訪れていたマクレディだったが、
不審な事件が頻発し、アメリカやイギリスの刑事が捜査の為訪れるものの、
首を突っ込まずにいられぬマクレディは、持ち前の勘の鋭さや洞察力でもって、
陰から操作を支援するどころか、陰謀の核心を突き止める。

物語は、複数のプロットが絡んだり絡まなかったり、あるところでは影響があったり、
紐解いてみると実は直接関係がなかったり。
安直な日本の推理小説なら読み慣れている向きも、
最後には唸らせること請け負いの読み応えを持っている。


「戦争の犠牲者」のあとがきにも書かれているように、現代は
コンピューターや衛星を代表とする電子情報(ELINT、エリント)、信号情報(SIGINT、シギント)を始め
テクノロジーの進歩は凄まじく、スパイであってもそれらに頼りがちだ。

しかし冷戦が終わったとき、各国の情報機関は生き残りをかけて産業スパイのような所業にも及んでいる。
奇しくも、ここ数年何処かの情報機関が政府や民間の通信を盗聴しているとか、そんな事件が頻発している。

それ自体論じるのは愚問の出来事だが、コンピューター化時代に於いて、
人は自ら情報を処理する力を失いつつある。
フォーサイスは、その他の著作、神の拳等でも人的情報(HUMINT、ヒュミント)の大切さを説いている。

コンピューターでコミュニケーション能力がUPするなどという戯言は、空想もいいところだ。
確かに考えることは頭の体操というくらいだから重要だが、何もコンピューターに頼る必要はないし、
そんなことをのたまう人間は、コンピューターを取り上げられたらそれこそ何もできない。
フェース・ブックだのLINEだので「コミュニケーションしている」ガキどもは、「アホ」だ。
自分達が親になった時、赤ん坊とLINEで話をするとでもいうのか。

人間の5感で他の動物より優れているのは、何だろう。
人間の目はなかなか高性能だといわれるが、部分的には、鳥や猫の方が優れている。
耳や鼻は、犬を始め動物の方が良く利く。
残るは手足と口である。触感は、どんな動物でも持っている。まあ人間の手の方が器用だが、
手が器用な動物には猿もいる。猿が進化して人間になったのかどうかは置いておいて、
もう一つの食感を司る口は、食べるだけでなく、話すことも司っている、
そう、言葉である。人間の5感で動物と決定的に違う器官、それは口だ。
しかも言葉というのは、有史以来人類が開発してきた、コンピューター以前の立派な”ツール”なのだ。
これを活かさずしてどうして人と言えよう。

21世紀を担う世代は、真剣に「生きる」ということを考えないと、人類は猿に戻ってしまう。

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