■2015年12月8日:スナイパーの誇り
原題:SNIPER'S HONOR (2014年アメリカ) | |
著者:スティーヴン・ハンター Stephen Hunter/1946- アメリカ生 |
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文庫初版:2015年1月10日 扶桑社ミステリー | |
第2刷時価格: 上下巻とも880円 | |
巻数:上下巻 | |
品番:ハ19-28,29 | |
管理人読了日:2015年5月6日 | |
映画化:未 | |
映画題名:未 | |
映画主演俳優・女優:ー | |
日本語DVD化:ー |
第二次大戦時のソ連赤軍(1946年にソビエト連邦軍になるまで、
ソ連の国軍は共産党の組織だった)は、連合軍には含めない。
その方面を知る人々には当然のことで、赤軍が侵攻地域において
かなりの悪事を働いたことは事実だし、ましてスターリンは英雄ではない。
ハンターは、そんなソ連赤軍の暗部から題材をとって本書を著した。
お馴染みの主人公、ボブ・リー・スワガーは、前回知り合った
記者のキャシーから受け取ったE-mailがもとで、
第二次大戦時の赤軍のある女性スナイパー(愛称はミリ)の功績の調査のため、
ロシア及びウクライナに赴く。
その女性狙撃者は実在の人物がモデルらしいのだが、
とにかく架空の世界ではある地点から記録が途絶えてしまい、
生死不明となってしまっていた。そのある地点とは、
もちろんある作戦の時期のことなのだが、
この人物、貧しい出で家族も夫も戦争で亡くした薄幸の美女。
となれば、我らがヒーロー、ボブが動かないわけがない。
物語の終わりで、ボブは
「彼女が美しく勇敢な戦士だったからではなく、
彼女は、狂気に駆られた男たちの陰謀に巻き込まれて命を失い、
これまでの長い年月、世間からほとんど忘れられていた何百万ものひとびとのひとりだからだ」
と回想し自分の気持ちを整理しようと試みるシーンがあるが、
私には「彼女が美しく勇敢な戦士だったから」で良いと思える。
美しいだけでは価値がないが、ミリはその上勇敢だったのだから、
十分に一肌脱ぐ価値がある。悪いが、美人には特権があるのだ。
ボブは持ち前の忍耐強さを発揮して、地道かつ緻密な調査を行う。
単に地道なだけではダメで、そこには、分析する頭と、矛盾を見抜く頭脳が必要なのだ。
(こういうところは不具合の調査作業に似ているところがあり、
私などは非常に共感を覚える)
当然そこには陰謀が待ち構えているわけで(でなければ小説にならない)、
現代のイスラエルの情報機関などが追っている人物と黒幕は一致する。
一方、調査対象である女性狙撃手、ミリを追うドイツ軍には、
薄汚い武装SS(親衛隊、元ナチス親衛隊突撃部隊(SD)を兵力補充のため軍隊化した組織)の
隊員の他に、国防軍の降下猟兵達がおり、降下猟兵というのはどうやら物語の中では、
ロマンチストだったようだ(「鷲は舞い降りた」を参照)。
そういった感性が物語の出来栄えにどんな効果を及ぼすかどうかは、
筆者の腕の見せ所なのだが、さすがはハンター、単なるエンターテインメントと
痛烈なナチズム批判のあいのこのところで、バランス良く終わらせている。
悲劇で終わるよりはよっぽど楽しめるだろう。
たまには悲劇も良いが、それでは小説は売れない。
そろそろボブも老境、息子のレイは生活も安泰とあって、
あとがきによれば、著者はどうやら次回作は彼ら”ヒーロー一家”とは
ちょっと外れたところで考えているようだ。
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