戻る クリックして拡大

にほんブログ村 海外生活ブログ タイ情報へ
にほんブログ村

■2021年6月1日:スパイ小説の世界へようこそ 8

20

パシフィッククラブでコニーと会った次の日、
情報があろうがなかろうが、昼間はやることがないので、
いい加減五十男は出かけることにした。

目的地は、Golden Mile Food Centreだ。

ゴールデンマイル・フードセンターは、MRTのブギス駅の北東にある。
ブギス駅で降りると、南西がインド系の人々が集うエリア。
北東が、ムスリムの人々が住まう地域だった。

ムスリムといったら、今の立場の五十男にとっては、
できれば遭遇したくない人々だったので、歩いたら1kmもない距離だったが、
彼は駅の前でタクシーを拾って、ゴールデンマイル〜の目の前まで
運んでもらうことにした。


タクシーの運ちゃんに駄賃程度にしかならない料金を払って、車を降りた。

時刻は10時ごろ。

ゴールデンマイル〜からすると、朝と昼のかき入れどきのちょうど中間の時間帯だった。

ここがなぜゴールデンマイル〜という名がついているのか、
五十男は知らなかったが、このビルは1Fがフードコートになっており、
様々な人種の人々が、ここで飯をかき込んでいる。

そして、2F以降が、主にアパレルのテナントがぎっしり詰まっている。
中に軍の払い下げ品を売っている区画があって、
払い下げ品はおそらくシンガポール軍の兵士が不用品を
売っているのではないかと思われたが、

それ以外にも、Black HawkだのMAGFORCEだのといった、
ミリタリー・アパレルの取扱店もあり、
昔五十男はこの界隈で英MAGNUM社製のブーツを買ったことがあった。

ここにも、その昔マフアンと一緒に来たことがあるのだ。


今回も、何とはなしに、目ぼしいものを物色して回るつもりだった。

クリックして拡大

シンガポールのここに、なぜミリタリー用品を販売する店が
集中しているのか、五十男はわからなかったが、
それ以前に、ここに引き付けられる何かがあった。

それは、ここの商店主たちに秘密がある。
ここの店の主人たちは、殆どが華僑系のおばちゃんたちなのだ。

この人たちに、よくある中国系のがめつさはない。
客の買い物を親身になって一緒に検討してくれる、
やさしいおばちゃんたちなのだ。

普段は、家庭で普通に夫や子供たちに家庭料理をふるまっているのではないと
微笑ましい想像をしながら、五十男は各店を見ていった。


中に、5.11の商品を売る店があって、
五十男はRUSH Delivery LIMA(肩掛けバッグ)を見つけた。
値段は、225ドル。

日本より少しだけ安い。
ここは、別に安いわけではない。
それでも、いい買い物だろう。
RUSH Delivery LIMAは、ノートパソコンも入って、
リュックのように背負うこともできる。

五十男は、リュックは嫌いだった。
降ろすのが面倒だ。
その点、RUSH Delivery LIMAは、肩にたすき掛けできるので、
中身を出すのも楽だ。

五十男は現金を払ってバッグを購入すると、1Fに降りた。


色々物色しているうちに、なんだかんだいって結構時間が経っていたらしい。
気が付くとお昼になっていた。

五十男は、今日のところはここで昼飯にしようと決めた。
たまには安いものを食うのもいいだろう。

五十男は外が見えるところにある、スタンド形式の店の椅子を引いて座った。
売り子がメモ用紙を片手に注文を取りに来た。

五十男はカオマンガイ(ゆで鶏とそのゆで汁で調理した米飯を共に盛りつけた料理)を注文した。

売り子が水を持ってくる。
その水を飲みながら、五十男は通りを眺めた。

向かい側には、Golden Mile Towerがある。
ショッピングモールだ。
この付近には、ゴールデンマイルという名称を冠した店が何件かある。


ふと、コニーのことが頭をよぎって、にやついてしまい、
あわてて表情を引き締めた。
久方ぶりの恋愛感情を意識して、五十男は少々気恥ずかしかった。

恋愛感情に年齢制限はない。
ただ、場数を踏んでいると、若者と違って戸惑わないで済むだけだ。
まったくいい歳をして、と我ながら思う。

しかし、と彼は開き直った。
彼は今50だ。
けれども、15の若者だったら、どうだ?
誰も咎めないだろう。

そうだ。胸を張って進めばいいのだ。
何も悪いことはしていない。


売り子が料理を持ってきた。
一人でにやついていたら変人に思われるかもしれないと、
慌てて真顔に戻した。

本場で食べるカオマンガイは格別だった。
お約束で、コンソメのような風味のスープが付いてくる。
このスープは、油のかたまりなので、飲むのは一口にとどめた。
また医者に脂肪肝だなんだと言われるのはごめんだ。

食べ終わると、五十男は立ち上がって料金を払うと、店を後にした。


次の目的地は、ノースブリッジ・ガーデンだ。
先日、五十男の側の人間が、敵にバラされて天に召された地。
一度、事故現場を見ておきたかった。
事件からかなり時間が経っているので、危険はないだろう。

ノースブリッジ・ガーデンは、ゴールデンマイル〜の前のビーチロードを少し行って、
左折してジャラン・スルタン通りからもう一度右折して、今度はノースブリッジ・ロードに折れて
少し行ったところにある。

要するに、五十男の現在地点から、コの字に進んだところだ。
住宅地と、スーパーみたいな建物に囲まれた、見通しのきく小さな公園で、
なんでこんなところが事件現場になるのかわからない。

現地には、事後数日経っているためか、非常線だのその類の
囲いや表示は何もなく、自由に公園内に入れた。

五十男も少し公園内に入ったが、特に目ぼしいものはなく、
上を見上げても付近の住居の窓から、五十男を見張っているような人間の気配もなかった。

エンゲルさんよ、何であんたはこんなところでドジを踏んだんだ?


考えられる可能性は、ターゲットであるバイバルスを発見して逃走され、
追跡するうちに返り討ちにあったのが、たまたまここだったという可能性だ。
銃で撃たれた、ということだったので、その可能性はある、
と五十男は園内を見て回りながら考えた。

見たところ樹木もまばらなので、運悪く人通りもなかったのだとしか思えない。

あまり長くいても、五十男自身が人目につく恐れがあるので、
彼はこの辺で引き上げることにした。

クリックして拡大

21

昼間はバッグくらいしか収穫のなかった五十男だったが、
夜は朗報、と言うか少なくとも仕事には恵まれた。

五十男は、店主と向き合って座っていた。
店主の話では、指令が降りたとのことだった。

「今度のコンタクトは、最初から名前を知らされている」
店主が言った。

「早くその名前を言えよ」

「聞いて驚くなよ、ゴドフロア(第一回十字軍に参加したロレーヌ公で、
早死にしたので短期間であったが、占領したエルサレムを統治した
)だ」

五十男は目をぐるりと回した。

「やれやれ、敵はバイバルスで味方はゴドフロアか。
キリスト教もイスラム教も、一神教徒はどうかしている」

「信仰は理性ではないんだから、そうなるさ」

「ま、オレにとってはどうでもいいことだがな。
それで、そいつを雇ったのは誰なんだ?」

「知らん」

「知らない?おかしいじゃないか、名前が知れていて雇い主が分からないとは、
どういうことなんだ?」

「おかしくはないさ、オレたちに知る必要があるのは、
明日あんたがコンタクトに引き渡す指令書の投函場所の情報だけだよ」

「それと、その指令書の内容だな」


「その指令書の内容というのは?」

「ターゲットの居場所の地図が書いてあるだけだ」

「ターゲットの居場所は?」

「この間言っただろう、サルタン・モスクか、その周辺だよ」

「嘘だろ?あの話は本当だったのか?」

「そうだよ」

「そんなところ、バレバレじゃないか!」

「オレがその周辺、と言ったのはそこだよ。
モスクだと言ってきたのはオレの上の方からの情報だが、
そこにはいない、というのがオレの推理だ」

「当然だろうな。誰でも目を付ける場所だ」

「そうだ。ゴドフロアは、何らかの方法でターゲットをあぶり出す
必要があるだろうな。
ま、幸いそれはオレ達が考えることじゃない。
オレたちは情報屋だからな」

「そんなもんかね。
それで、投函所はどこなんだ?」


「フォートカンニング公園だ。
あんたはリバー・バレー・ロードのどこかから、荷物がなくなったかどうか、見張れる」

五十男は情報部の場所の選択の適切さに関して、思わずうなった。

店主の言う通りで、あの界隈は、夜ならその辺をうろついていても、
誰にも怪しまれない。

まして、公園は結構広いから、公園の中にいてもバレないだろう。

「察しの通りだ。
あんたは、公園の道路沿いに植わってる木の根元に手紙を置いて見張るだけだ」

五十男の表情を読んで、店主が続けた。

「ま、オレならやりたくないけどね。
ボーイスカウトの真似事にもならない」

店主がさらに付け足した。

「それを済ませば、あんたもコニーちゃんとのデートを
心置きなく楽しめるってもんさ」


店主の言葉は一言余計だったが、五十男は納得して店を後にした。

Tweet


関連記事:

■2021年5月26日:スパイ小説の世界へようこそ 7
■2021年5月19日:スパイ小説の世界へようこそ 6
■2021年5月12日:スパイ小説の世界へようこそ 5
■2021年5月5日:スパイ小説の世界へようこそ 4
■2021年4月27日:スパイ小説の世界へようこそ 3
■2021年4月13日:スパイ小説の世界へようこそ 2
■2021年3月29日:スパイ小説の世界へようこそ


関連リンク:

Blog [Novel] Living in Thailand バンコク@タイ在住/奥様もタイ人・管理人のまったりサイト Top



戻る