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■2022年1月16日:教皇のスパイ

クリックして拡大  原題:THE ORDER (2020年アメリカ)
 著者:ダニエル・シルヴァ
     Daniel Silva /1960- アメリカ生
 文庫初版:2021年3月20日 ハーパーBOOKS
 第2刷時価格: 1,440円
 巻数: 単巻
 品番:M・シ/1・10
 管理人読了日:2021年10月30日
 映画化:未
 映画題名:未
 映画主演俳優・女優:ー
 日本語DVD化:ー

イエス・キリストの死に対してユダヤ人に責任があるかどうかなど、
ユダヤ教徒かキリスト教徒でもない限りどうでもいいことだが、
その処刑の指示に当時のローマのシリア総督ピラトが関わっていたのか否か、
について秘密資料が存在した、という陰謀を描いたのが本作品。

冒頭から教皇殺害の陰謀で始まるのだが、
上記の説如何によってユダヤ人の被迫害の歴史が変わる、というのが本書の本筋だ。

ナチスがユダヤ人の迫害を行ったのは、ファシズムとは古代ローマのマネごとであり、
古代ローマがユダヤ人の迫害を行ったから、それまでマネした、というのが歴史上の事実だ。

しかし古代ローマに於いて信教は自由だった。
ユダヤ教徒が歴史上何度も迫害されてきたのも事実だが、
古代ローマ時代に迫害されたのはローマに対して反乱を起こしたりしたからであって、
我々現代日本人のような、多くは信教を持たない者には理解困難なことだが、
キリスト教は興ったばかり、イスラム教はまだなく、
ユダヤ教以外、一神教はなかった時代である。
一神教徒にとっての自由とは、我々が考えるような手放しの自由ではない。
「あなたはわたしの他に、何ものをも神としてはならない」とされたユダヤ教徒にとって、
ローマの多神教の世界での、自由は存在しなかったのである。

コンスタンティヌス帝によってキリスト教が勝利した後は、
迫害されたのは今度は古くからいたギリシャ・ローマ教徒だった。


さてピラトの件だが、著者は明らかに勘違いしている。
塩野七生の「ローマ人の物語」によれば、
ピラトは確かにイエスの処刑をOKしたが、
それはユダヤ人の判断に任せることをOKしたのであって、
彼がイエスの処刑を命じたのではない。

ローマ帝国が法治国家であったのは歴史の常識だが、
ピラトの前の総督クィリーヌスがユダヤ教徒はローマ市民権を持たぬゆえ、
罪を犯した場合でもローマ法ではなくユダヤ法で裁かれる、とした。

但し、極刑である死刑に関してだけは、総督の許可が必要とした。
これは、万一何かの重大事、不測の事態の未然の防止策であったのは当然だ。
イエスは、キリスト教のいわば創設者である。
この時代には、まだキリスト教は確立していなかった。
普通に考えれば、ユダヤ教徒でもキリスト教徒でもない、
ローマ人であるピラトなら、厄介ごとには関わりたくない、と考えるのは当然だろう。

もともとイエスが殺されたのは、偶像崇拝を禁ずるユダヤ教徒の間にあって、
私は神を見たとかなんとか言いふらして回ったからだが、
ここにピラトの関与の可能性が生じると、キリスト教徒から見てイエスの処刑は
ユダヤ人の謀議だった、とする説の正当性が失われる。

本書でも書かれているが、歴史として記録された遺跡や碑文、史跡でも、
そこに記されていることが真実ではない場合がある。

キリスト教の史料に時に多くあるそうだが、
そう伝えた方が自分たちに有利なように遺されることもあるのだ。
言ってしまえば改ざんだが、亡くなった人に問いただすわけにもいかない。

直前の説に戻るが、ピラトがイエスの処刑に許可を出したとなると、
ユダヤ教排斥主義を掲げるキリスト教会内の宗派にとって都合が悪いので、
彼らの手によって図書館で古文書を見つけたとされる教皇は殺害された、
というのがおおまかなストーリーである。


ここに我らが主人公ガブリエルがどう絡んでくるのかは、読んでからのお楽しみ。
最初に書いたように、イエス処刑の真実などどうでもいいのだが、
プロット自体はシルヴァの熟練の筆なる作とあってとても面白いので、読んで損はない。


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