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■2021年6月15日:スパイ小説の世界へようこそ 10

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五十男はホテルに戻ると、ノートパソコンを開いて、
作戦を実行し、見たことをメールでアドゥルに送った。

翌火曜日、五十男はホテルで一日パソコンを開けっ放しにしていたが、
誰からも何も連絡はなかった。


2日忙しく働いたから、今日は骨休みするかな。

五十男は一日窓の外を眺めて過ごした。


次の日、午前中に、待ちかねた連絡が入った。
NIAからメールが届いた。

メールは、次のように始まっていた。
英語だった。

拝啓

オオシマ殿

ハイキングの件(この月は”山”を匂わせる単語が符号代わりになっていた)

我々の友人は、ドイ・インタノンを登ったらしい。
あの歳にしては、たいしたものだね。

きみも来て登ったらどうかね。

追伸

早めの連絡を乞う。
きみは風来坊だから。


最後の皮肉は別として、

文面を見て、五十男はドイ・インタノンとは何のことだかわからなかったが、
ハイキングに続く文面なのだから、山のことなのだろう。

ブラウザを立ち上げて”ドイ・インタノン”と検索すると、
確かにタイの有名な山らしい。

そんなこと、オレが知るわけないだろう、と苦笑したが、
完了形なのだから、誰かは仕事に成功した、と見ていいだろう。

そのすぐ次に書いてある言葉だが、”来て”となっているので、
タイにある山だと言うことは、タイに戻ってこい、という意味だろう。

そこまで読み取って、五十男はまた苦笑した。


いまどき、こんな文体のメールを書く人間がどこにいるのか。
このメールを傍受した人間がいたとしたら、
直ちに何かの暗号文だと見抜くだろう。

アドゥルもボケたか、と本気で考えた。

しかも、なぜタイ人なのにわざわざ英語を使うのか。

タイ人の中には、教養をひけらかそうとする人間がいるが、
アドゥルもその一派なのかもしれない。

タイ語で書いておけば、読める人間の数はぐっと少なくなる。


五十男は、嫌みで自分はタイ語で返信することにした。

拝啓

おぢさま(わざと綴りを間違えて書いた)

我々の共通の友人と言うと、ソムチャイさんでしょうか、エーカシットさんでしょうか。

私は今、マウント・レーニアにいます。(ワシントン州の成層火山

そちらに戻るのは、早くて2,3日後ですね。

首を長くして待っていてください。

かしこ


これで意味が通じるかどうか不明だが、構うものか。
明日はコニーとデートなのだ。

アドゥルは激怒するような人物ではないし、
そこがタイ人のいいところだ。
美徳と言ってもいい。

だいたい、作戦は成功して、脅威はなくなったのだ。
(もしくは、少し減じた、というところか)

アドゥルはゴドフロアとやらをタイに呼んでやって、
タイ料理でも振舞ってやればいい。


五十男はメールを送信すると、一旦PCを再インストールして、
メールソフトも入れ直し、新しいメール・アドレスをこしらえた。

次に、先ほどのアドゥルのメールアドレス宛に、ヒマラヤ、とだけ書いて送信した。
次はこのアドレス宛にメールを寄越せ、というメッセージだ。

何度もやっているので、
アドゥルがこのやり方をわからない、ということはないだろう。

考えてみると、この方法だと、ジャンクメールも極度に少ないので便利だ。


13時を過ぎていた。
腹が減ったので、階下のJADEへ降りて行って、
”今日のランチ”をテイクアウトにしてもらった。

フロアを横切ってエレベーターに向かう途中、なんとなく、視線を感じて横を見た。

フラトンは、ロビーからエレベーターに向かうフロアが
レストランになっていて、そこで食事をする客もいる。
その客のうちの一人が、五十男の方を向いてにらんでいた。

顔立ちは、インドネシア系だろうか?アラブ系だろうか?
はっきりとはわからなかったが、その辺の人種は、区別がつきにくい。
そもそも、顔かたちがわかるほど見つめるのは危険だ。

五十男はすまして部屋に戻ると、テイクアウトした料理は部屋のテーブルに置いて、

急いでPCを片づけてスーツケースにしまうと、
洗面用具も、洗濯に出そうとして部屋の隅に重ねておいた衣類も拾わずに、
スーツケースと鞄だけ持って部屋を出た。

フラトンに長居しすぎた。


部屋を出ると、ボート・キーの方に進んで、人ごみに紛れた。
さりげなく海側を向いて右の方に視線をやった。

フラトンはそっち側なのだから、
尾行してくるのはそっちからだろう。

それらしき気配はなかった。

さらに進んで空いている店がないか探すふりをしながら、
さっと路地に入ってサーキュラー・ロードに出た。

止まっているタクシーがいたが、それは無視した。
罠かもしれないし、止まっているタクシーはたいがいさぼっているから、
ふっかけてくる可能性がある。

シンガポールでぼったくられるような五十男ではなかったが、
面倒は避けたかった。

運よく流しのタクシーがすぐに来た。


五十男は空港に向かってくれるよう、運転手に告げた。
車はすぐさま高速道路に乗る。

高速に乗ってから、五十男はしばらくバックミラーを気にしていたが、
追跡してくる車両はなかった。

五十男は手遅れにならないうちに、高速を降りてくれるように
運転手に頼んだ。

運転手ははあ?と不満の声を上げたが、
ため息をついて手近の出口で高速を降りた。


降りたのはカラン・ロードだった。
やはり、追跡されているような気配はなかった。
気のせいだったのかもしれない。

五十男は別のタクシーをつかまえて、パンパシフィックに行ってくれるように頼んだ。


パンパシフィックでは、前回と同じような部屋を頼んだ。
手続きしている間、できるだけ平静を保つよう努めた。

フラトンからは、違約金の請求が入るかもしれないが、
後でメールで詫びを入れておこう。

部屋に向かう途中、ハイティエンローに立ち寄り、
今度は点心のランチセットのテイクアウトを頼んだ。

ランチを待つ間に、フロアの縁に行き、上を下を見まわしたが、
やはり誰かがこちらを見ている様子はなかった。

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部屋に入ると、おいしい中華をさっさと平らげて、コニーに電話した。
15時前だった。もしかしたら、出勤途中か何かで、つかまらないかもしれない。


4,5回呼んでもつながらないので、懸念通りかと考えて電話を切ろうとしたとき、
コニーが電話に出た。

「ハロー」
コニーの声だ。

たちまち、胸が熱くなる。

「やあ」

「オオシマさん!?

やだ、わたし今更衣室なんですよ」

五十男は顔まで赤くなるような気がした。

「おや、まずかったかな?」

「まずかったって...
少ししてから掛けなおしてもらえますか?」


五十男は5分経ってから掛けなおした。

「ハロー。
もうフロアに出ています」

あまり話せない、という意味だろう。

「手短に言うよ。明日の朝7時か8時にもう一度電話するよ。
オーケー?」

「オーケーです。それじゃ」


またパンパシフィックに泊まっているとは、
敢えて言う必要はないだろう。
彼女まで危険に巻き込むことはない。

彼女ももうパシフィックに来ているということか。
会いに行こうかと思ったが、上述の観点からやめておいた。

今日は悶々としたまま眠るとしよう。

その考え通り、五十男はこの日は煩悩を頭に抱えたまま、
残りの時間を過ごした。

頭の一方では、先ほどの出来事を検討していた。
あれは一体なんだったのだろう・・・?

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