■2016年3月21日:ヴァルハラ最終指令
ジャック・ヒギンズ第2次大戦もののシリーズ。
別名義での上梓である。
既に述べているように、ヒギンズ小説のテーマは大きく分けて3本あり、
それは「中国もの」・「第2次大戦もの」・「IRAもの」とあって、
ヒギンズは好んでドイツ軍兵士を善玉として扱うようなところがあり、
戦争全体の趨勢として、最終的にはドイツ側の登場人物には悲劇が襲うことが多いのだが、
一般に血も涙もないと思われがちなナチス・ドイツの兵士でも、
1個の戦士として立派な人間として扱うところが、各国から評価されている。
さて本作はドイツ側の主人公、第502SS(武装親衛隊)重戦車大隊のカール・リッター少佐、
対するアメリカ側のレインジャー隊の指揮官、ジャック・ハワード大尉の対決を描く。
二人は囚われのアメリカ軍准将、ハミルトン・カニングとSAS中佐、ジャスティン・バーを
救出、または身柄確保するために対立する。
双方はそうと知りながら物語が進行するわけではないのだが、
そこで暗躍するのがドイツの国家指導者、マルティン・ボルマン。
この人物は第2次大戦のドイツ史に詳しい方なら、誰でもご存知のナチス・ドイツの有力者で、
極め付きの曲者であり、戦後も長期にわたり南米での生存説や、
潜伏してナチス再興を画策している、などの陰謀説が囁かれていた。
ヒギンズが題材にしたのはこの陰謀説で、彼の逃亡の企てに本書の登場人物達は
いいように踊らされた、という落ちである。
中盤付近では手に汗握る展開が続き、はっきり言って読む手が止まらない。
彼ら兵士達は良くも悪くも入隊時の宣誓や、上官の命令や、祖国への使命によって
内心の葛藤とは裏腹に任務に邁進したのであり、読者には何とも理解しがたい行動であっても、
彼らにとっては何の疑問も抱く必要のない、しごく当たり前の行動だったのである。
要するに、彼らにとってそれはゲームであり、抜け出せないとともに、
単なる芝居だから、まともに真に受ける必要もないのだ。
このヒーローの孤独さ、何とも言えない哀愁がヒギンズの味であり、堪らなく切なくしてくれる。
白々しく青臭い人間ドラマでも、一流のロマンに観せるヒギンズの腕前に、
再読しながらまたもや唸らされた。
ちょっと登場人物が命を落とし過ぎのきらいはあり、二等兵が実力を発揮しまくるところなど、
「プライベート・ライアン」めいたところはあるが、
それでもヒギンズの代表作に数えられて然るべき傑作だ。
「ヴァルハラ・エクスチェンジ、ヴァルハラ・エクスチェンジ・・・」
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