■2022年4月20日:スパイ小説の世界へようこそ V-11
19
「屋上に上がってください」
衛星携帯電話でプーからそう指示されると、
五十男はいやな予感がした。
「まだマリーの引き取りが来ていないんだ!」
五十男は電話機に向かってがなった。
「その方は任せてください。
例の動物病院でしょう?
ちゃんと預かってもらえるように取り計らいますよ。
支払いはあなたですが」
プーの平静な声が答えた。
・・・手回しが良いんだか悪いんだかわからない。
しっかりしていやがる。
案の定、コニーと一緒にアパートの屋上に出て、しばらくすると、
彼方からUH-1イロコイが飛んできた。
うそだろう・・・
イロコイは彼らの真上までくると、10mかそこいら上空でホバリングし、
1本の太い綱が下りてきた。
「いやだ、これにつかまれっていうの?」
とコニー。
「どうやらそうらしいな」
五十男は、妻のほっそりした腰に腕を回して、
コニーごと綱を両手でつかんで、コニーには自分の首に腕を回すように伝えると、
綱を数回引っ張った。
コニーのふくよかな胸の感触越しに、彼女の鼓動が伝わってきた。
その鼓動は早鐘を打っていた。
彼女の長い髪が風にたなびいて鼻をくすぐった。
ほのかな香りもした。
綱はすぐに引っ張り上げられ、二人は機関士に助けられて、
機内に引きずり込まれた。
機内では落ちないようにしっかり座席に固定された。
二人ともヘリコプターなど初めての経験で、ひどく揺れて気持ち悪かった。
ロッブリーのナライ王基地に着き、五十男とコニーが作戦本部に入っていくと、
一斉に全員が二人の方を見た。
いや、誰もがコニーに釘付けになった。
「いやいや、どこぞの女優が来たのかと思ったよ」
アドゥルが茶化したので、
「連れて来いと言ったのはあなたですよ」
と五十男は嫌味を言った。
それまでにやにや笑って見ていたゴドフロアが、コニーのところまで歩いてきて、
優雅に彼女の手を取って、手の甲にキスをした。
「また会ったね」
「その節は、お世話になりました」
歴戦の勇士は、何をやらせても自然だった。
「早速出発する」
アドゥルが言った。
「え、もうですか?」
「さっきヌラディン君から入った情報で、
敵は海上で射撃訓練としゃれこんだらしい。
それと向こうにも狙撃手がいるね」
最後の部分はゴドフロアに聞かせるように言った。
「ヌラディンはどこにいるんですか?」
「プーケットに向かっているよ。
あっちで会えるだろう。
あっちにはプーを行かせるから」
「あなたは行かないんですか?」
「私は本拠地の守備だよ。
それに、この期に及んでヘリコプターから足を踏み外して落ちたくないからね」
彼らは3機のブラックホークに便乗し、夕刻出発した。
プーケット国際空港に着いた頃には真っ暗になっていた。
一人、ハイヒールにドレスのコニーだけが場違いだった。
観光地の空港だ。
軍用機の着陸は暗くなってからに越したことはない。
兵士の降機も、世闇に紛れられる。
但し、後になってその様子を空港内施設から見ていた空港の利用客が、
ドレス姿のモデルが兵士たちの間に交じっていた、という証言をすることになる。
五十男やコニーたちは、空港の秘密の会議室を臨時で
作戦司令部にした部屋で、ヌラディンに再会した。
「また会いましたね、コニーさん」
ヌラディンがコニーに慇懃に挨拶した。
「今晩は、たくさんの旧友の方々にお会いしました」
コニーが応じた。
「やあ、大冒険だったんだって?」
五十男も声を掛けた。
「方々で酒を勧められて困ったよ」
ヌラディンがやり返した。
「今日の夕方、トラン県の港で、タイ人とアラブ人の怪しげな一団が、
漁船で出航するのを目撃されています。
何でも、サッカー仲間だと言っていたとか」
プーが最新情報を伝えた。
「それだ」
とゴドフロア。
「怪しいな」
こちらは五十男。
ヌラディンは、プーに向かって頼んだものは持ってきたか、と訊いていた。
「なんだ、それは?」
五十男が訊いた。
「爆薬だよ」
さらに一時間もすると、テロリストの侵入の方法を推定し合っていた
五十男、ゴドフロア、ヌラディン、コニーの間に
またプーが割り込んできて言った。
「たった今、衛星が沖合をプーケットに向かって航行している漁船2艘を発見したそうです。
10人前後の人間が乗っていると推定され、明らかに漁業コースとは異なる航跡だそうです」
「出発だな」
ヌラディンが言った。
「場所は絞り込めているのか?」
五十男が応じた。
「ええ、大丈夫です。
但しヘリが着陸できる場所はないので、懸垂降下になります」
「それはなに?」
コニーが訊いた。
「ヘリコプターからロープで降りるんだよ、お嬢ちゃん」
ゴドフロアが説明した。
「ドレスの裾がまくれないかしら」
「オオシマがおぶって降りれば大丈夫さ」
ブラックホークはひどく揺れた。
特に、リゾートの直前で海岸線付近のため気流が変化したのか、
揺れるというより、上下方向に何度も浮き沈みした。
もともと飛行機恐怖症持ちの五十男は悲鳴をあげたいのを
意志の力を振り絞って我慢した。
というより、ほとんど正気を失う寸前だった。
銃の面前では、撃たれる可能性を想像するから怖いのであって、
その考えを締め出せば耐えられる。
飛行機の揺れの場合は墜落する危険だが、
・・・現に揺れているのだ。
これを考えるな、という方が無理な話ではないか?
斜め向かい側に座っていたヌラディンがにやにやしながら訊いた。
「オオシマ、まだ戦場に着いたわけじゃないんだ。
そんなに真剣になる必要はない。リラックスしろよ」
くそ、ヌラディンのやつ、オレの性癖に気づいていて面白がっているな。
ターイのコンサートのときの仕返しのつもりか。
五十男は左側に座っているプーを見やると、
彼も青ざめた顔で五十男の方を見返してきた。
よし、仲間が増えた。
反対側に座る妻にも声をかけた。
コニーから返ってきた返事は、
「なに?怖いけど平気よ」
ふむ。女の方が強いところは強いからな。
五十男は最後に、真正面、ヌラディンの隣にいるゴドフロアの方を見た。
ゴドフロアは、頭をこっくりこっくりしていた。
寝てやがる・・・
予想通り、ヘリからの降下はさらに困難を極めた。
但し、五十男に限っての話だが。
五十男とコニーは第一特殊作戦師団の隊員たちに、
動きに支障がない程度に、互いの体を紐で結わえてもらった。
若い隊員たちは、五十男が羨ましそうだった。
地上に降下すると、先を進むヌラディンが五十男に訊いた。
「大丈夫か?」
「こ、腰が・・・」
「あなた、大丈夫?」
コニーが五十男に肩を貸して歩いていた。
「どっちがおぶっているんだか分からんな」
ゴドフロアが冷やかした。
「あんた、よくあれだけ揺れるところで寝れるよな」
五十男が返した。
ゴドフロアは少し間をおいてから答えた。
「いや、寝てないよ、うつらうつらしていただけさ。
結構揺れたからな」
「揺れ自体はなんとも思わないのか?」
ゴドフロアはまた少し考えてから言った。
「単に揺れているだけだ」
・・・ゴドフロアやヌラディンといった人材こそ、真に剛の者というべきだろう。
幸いなことに、五十男たちのほうが一歩先んじていたようだった。
彼らがロビーに着くと、どうやら連絡があったようで、
ロビーの女性係員から、今のところ異変は起きていない、と伝えられた。
ただ、ゲストは避難させたとのこと。
五十男は彼女らのうちの一人から訊かれた。
「どこかの王族の方ですか?」
確かに、20人以上の黒装束の男たちに囲まれたコニーは、
どこぞのVIPに見えたのかもしれない。
「ちょっと見て回る?」
「何をだい?」
コニーにそう訊かれて、五十男が怪訝そうに尋ねた。
「いやねぇ、リコネイザンスよ、リコネイザンス」
「とんでもない。もしかしたらISの連中は先に来て潜伏しているかもしれないんだ。
プロの隊員たちに任せた方がいい」
「そうなの?わざわざ呼ばれてきたからはりきったつもりだったんだけど。
それじゃ仕方ないわね」
確かに、我々の動きは少し遅すぎたかもしれない。
もう少し早く行動できていれば、その余裕もあったのだが、と五十男は思った。
特殊部隊員たちは、守備に当たるべくリゾートの各所に散っていった。
SR-25を抱える2名は、あらかじめ打ち合わせ済みの、
見晴らしのいい場所に陣取りに行った。
M-4を装備する隊員は、リゾートの周囲の茂みに入っていった。
MP5やショットガンを携える隊員は、ダイニングなどの室内を担当する。
ゴドフロアはM-4、ヌラディンはMP5を持っていた。
「わたし、ちょっとヒールを脱いでもいいかしら。
ずっと履いたままだったから、足が痛いわ」
「きみとオオシマとプーは、しばらくそこで休んでいるといい」
ゴドフロアがコニーに声をかけた。
ゴドフロアは何かとコニーに優しくしてくれる、と五十男は思った。
それも、プーのようにあけすけではなく、あくまで優雅で、
騎士道精神に通じるところがあるようだ。
ヌラディンは、何やら浜辺の方に降りて行った。
それじゃお言葉に甘えて、とコニーは靴を脱いで、
ロビーに置いてあるソファーのひとつに足を延ばして、横向きに座った。
五十男とプーはその両隣に座った。
二人は、イアフォンとマイクセットを渡された。
コニーが横になる際に、少したるんだドレスの脇から、一瞬乳房が露わになった。
プーが思わずのぞき込もうとして、コニーが座っている反対側から
五十男に後頭部を殴られた。
「何をするんですか!?」
「お前こそ、何をしているんだ」
コニーも気づいて、向きを変えて半ば五十男に寄りかかるような形に座りなおした。
プーの表情がうらめしげな様子に変わる。
「ちょっと、情報収集してきます」
そういって立ち上がり、テラスの方に出て行った。
「あなた、いじめちゃだめよ」
コニーは五十男をたしなめようとした。
しかし、五十男はあくまで強情だった。
「いじめてはいない。
追い払っただけだ」
彼の考えでは、プーのような若い男はもっと働くべきだった。
20
しばらくリゾート方面の砂浜や周囲の森を双眼鏡で観察した後、
ハフェズが口を開いた。
彼らは目につくヘルメットは被っていなかったが、
全隊員が頭にバンドで暗視単眼鏡を装着していた。
それは、ベロクロテープで止められていて、
片手で簡単に上げ下げを操作できた。
「アサド、お前はムラトとここに残れ。
お前は観測手だ。
ムラト、距離はどのくらいだ?」
「400mくらいだな」
レンジファインダーを覗きながらムラトが答えた。
「よし。ウサマとオマルはオレと一緒に来い」
ハフェズはウサマだけ片隅に引っ張って、ささやき声で言った。
「オマルから目を離すなよ」
「了解しました」
彼らはPULOの6人を先頭に、浅瀬をひっそりと進んだ。
ここは、日中は潮が引いて砂浜になるところだ。
10分ほどしたところで、ハフェズとホークの携帯電話が振動した。
彼ら二人が手を低く上げてそれぞれの隊の進行を停止させる。
ハフェズは携帯電話の画面を見た。
ムラトからだ。
敵の姿が見えたので、一旦止まれとあった。
ハフェズは首をひねった。
敵?敵とはなんだ?
彼より前にいたホークが、上げていた左手を握りこぶしにして、
そのまま下に下げた。
屈め、という合図だ。
ハフェズでもそうしていただろう。
ハフェズは屈んでから、握っていた銃を一旦離して、
来ていた迷彩服のポケットから双眼鏡を引っ張り出して、
リゾートを監視した。
さきほどは発見できなかった兵士の姿が目撃できた。
彼らは黒装束をしていて、浜辺を探索している。
ハフェズたちが侵攻を開始した時、タイの特殊部隊は既に位置に就いていた。
そのため、最初に観察した時は兆候を発見できなかったのだ。
彼は愕然として双眼鏡を下ろした。
何だあれは。
ホークも聞いていない、という風にハフェズの方を振り返った。
いやいや。
ハフェズは慌てて首を振った。
オレたちも聞いていなかったんだ。
ヌラディンのことといい、今回の作戦は想定外のことだらけだ。
気を取り直して携帯電話でムラトに連絡した。
「やつらは何人だ?」
「浜辺に見えているのは二人だけだ」
「どう思う?」
「どう思おうと、あの二人を排除しなければ進めないだろうな」
「やれるか?」
「愚問だ。
ただ、その後は蜂の巣を突いたような騒ぎになるだろうな」
ハフェズは電話を切らずに
ゆっくりホークのところまで行って、相談した。
彼の考えも同じだった。
ハフェズは電話に向かってささやいた。
「やってくれ」
21
ロビーから浜辺を見ていたコニーが言った。
「あ、あの二人、倒れたわ」
時刻は深夜二時で、もういい加減あたりは静まり返っていた。
五十男とプーがその声にびっくりして振り返ったのと、
耳のイアフォンに、落ち着いた声で無線連絡が入るのが同時だった。
その声は、こう言った。
「スナイパー」
400m離れたところでは、ムラトが自分の仕事の様子をスコープごしに観察していた。
しかし、すぐにアサドの声で我に返った。
「別の敵が現れました」
防衛側は、油断して先手を打たれてしまったが、
一人目が撃たれて倒れる前に反応していた。
二人目が倒れた時には、数人が浜辺に接近しながら
発砲源と思われる方向に援護射撃を行い、
別の二人が倒れた二人を遮蔽物があるところまで引きずって引っ張りこんだ。
だが、大口径弾で撃たれており、二人とも絶命していた。
さすがに訓練された動きに見え、
鮮烈な銃撃を浴びてムラトもアサドを頭を下げていなければならず、
次の射撃はできなかった。
「いったい彼らは何をやっているんだ!」
また一人倒れるのを見てプーが叫んだが、
そう言われるまでもなく、既に彼らの側の狙撃手も、位置について発砲していた。
ハフェズとホークのグループも、戦闘が開始されると、リゾートの浜辺に向かって
撃ちながら全力疾走した。
先頭を行くホークのグループのうち二人が、
見えない銃弾によって浜辺に打ち倒された。
残ったホークら四人のメンバーは、立ち止まらずに前進した。
ビーチの際のプールの縁の手前まで達した時、
ビーチサイドで爆発が起こった。
爆発は、ビーチの端から端まで一直線に続いた。
すさまじい爆発で、大音響だった。
防衛側の隊員は、一斉にその場に伏せた。
爆発の煙が晴れた時、ホークら四人の姿はなかった。
跡形もなく消え失せてしまった。
リゾートの中庭の影になった場所にいたヌラディンが、
起爆装置を手にしたまま出てきて、殺戮現場を見やった。
我ながら見事だった。
そばにいたゴドフロアが感心したように言った。
「あんなもの、いつの間に仕掛けたんだ」
「オレは魔術師なのさ」
ヌラディンは片目をつぶってウィンクした。
ホークたちが倒されてしまった後、ムラトら二人は、ドラグノフをかついで島の丘を後にした。
もうここにいても手伝えることはない。
それより、ハフェズらの加勢に行かないと、彼らは圧倒されてしまう。
ムラトとアサドは、リゾートの正面の砂浜を迂回するように、森の際を進んだ。
目の前でPULOの仲間が全て倒された後、
ハフェズは一瞬で次の行動を決断しなければならなかった。
この爆発は、間違いなくヌラディンの仕業だ。
こんなことができるのは、彼の知る限りこの世にただ一人しかいない。
プールの右手がプールサイドになっており、彼ら3人はそこに駆け込んだ。
途中、飛び出してきた兵士の一人の頭をハフェズが肩付けしたAK-47の銃弾で打ちぬいた。
プールサイドを抜けたところはダイニングになっており、
彼はウマルとオサマにはそちらに進むよう顎で示して、
彼自身は目の前の上に向かう階段を上った。
ダイニングに向かった二人のうち、
ウマルはイスの影にしゃがんでいた第一特殊作戦師団の隊員に、
MP5で胸を撃たれた。
ウマルは胸から鮮血を噴出させながら後ろ向きにプールに落ちた。
オマルの方は、何とかダイニングに飛び込むことができた。
階段を上ったハフェズは、何かにつまずいてよろけた。
その胸にMP5の銃口を突き付けられた。
階段を上りきったところで、ヌラディンがしゃがんで足を出していたのだ。
「ごくろうさん」
ヌラディンはにやにや笑っていた。
「くっ、きさま何の真似だ!?
イマームの名に背いて、
いつの間に異教徒の信仰にかぶれたんだ?」
「あんたには関係のないことだね」
ヌラディンはMP5の引き金を引いた。
彼の銃は、全自動にセットされていた。
「無駄話は、命取りだぜ」
ムラトとアサドは、腰を低くしてリゾートに接近していた。
ムラトはPBを手に持っていた。
ドラグノフは、もう役に立たないので負い紐で背負っていた。
銃声が止んでいる。
もう戦闘は終わってしまったのだろうか。
彼らはリゾート正面ではなく、
茂みを抜けて、中腹を目指していた。
アサドはRPG-7を持っていて、
ムラトは頃合いを見て止まると、アサドに発射の合図をした。
アサドは片膝をつき、肩の上にロケット発射筒を載せると、
慎重に発射手順を踏み、ロケットを発射した。
ロケット弾は、リゾートのダイニングの壁をいとも簡単に粉砕した。
ロビーから頭だけ出して下の戦闘の様子を伺っていた
五十男とコニーとプーは、その轟音を訊いた。
何事かと音がした方を見ると、下のダイニングの壁がくずれて
土煙を挙げていた。
特殊作戦師団の隊員たちがそちらに殺到する。
複数の銃撃を受けて、アサドはあっという間に倒れた。
但し、ムラトは伏せており、しばらくは持ちこたえていた。
彼はPBで特殊作戦師団の隊員の一人を撃った。
弾は肩に命中して、撃たれた隊員は倒れた。
しかし突然、後ろから銃撃がやってきて、ムラトも死んだ。
ゴドフロアがM-4を持って林を迂回して、回り込んできていたのだった。
静けさが戻ってきて、波の音が聞こえるようになってくると、
特殊作戦師団の兵士たちは、仲間の死体の回収と、負傷者の手当を行うとともに、
テロリストの死体検分を始めていた。
ロビーにいた三人組も、ぶらぶらとデッキに下りてきた。
「かなり死傷者は出ましたが、なんとか撃退出来て良かったです。
なによりリゾートのスタッフなど、民間人に犠牲が出なかったのは幸いでした。
実は最初、敵の正体がわからないのでどうなることかと思っていたのですが・・・」
プーが興奮気味に話していた。
戦闘が開始してから20分も経っていなかった。
「意外と脆かったな」
五十男もそんな感想を漏らした。
そのとき、プーの後ろで男が立ち上がった。
プーは物音で振り返ったが、そこに男が立っているのを見て、
ぎょっとした。
男はAK-47を彼に向けていて、こう叫んだ。
「アッラーフ・アクバル!(アッラーは偉大なり)」
プーの横にいたコニーがドレスの下の右足を一歩前に出して振り向くと、
パッとオマルの前に立ちはだかった。
ピンク色のドレスに月光が反射して、輝いていた。
「あ・・・」
オマルの口からそう声が漏れたとき、その動きは止まっていた。
五十男はその好機を逃さなかった。
コニーがテロリストの前に出ることで彼の脇にどいたので、
彼のところからはプーとコニーの間にいるテロリストが狙えた。
彼は腰のサムブレイクホルスターからさっとグロックを抜くと、
両手で銃を保持する暇はなかったので、片手でテロリストに向かって連射した。
どれが当たるか分からなかったのだ。
五十男は4発の銃弾を放った。
そのうちの2発がオマルの胸と腹に命中して、
彼は口から泡を吹きながら、前のめりに倒れた。
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