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■2018年8月20日:神火の戦場

クリックして拡大  原題:MURDER TEAM (2015年イギリス)
 著者:クリス・ライアン
     Chris Ryan/1961- イギリス生
 文庫初版:2017年10月19日 竹書房文庫
 初版時価格: 830円(上下巻とも)
 巻数:上下巻
 品番:ら1-5,6
 管理人読了日:2018年6月25日
 映画化:未
 映画題名:−
 映画主演俳優・女優:−
 
 日本語DVD化:−

本書が本国イギリスで刊行された前年、
全てマレーシアゆかりの航空会社だったが、
旅客機が行方不明となる事故が相次いだ。

クリス・ライアンがこれらに題材を得たのは間違いないが、
今回も引き続き主人公はダニー・ブラック。

標的はテロリストの親玉、カリフ。


カリフとは、イスラム世界ではキリスト教国の法王に当たる存在で、
ムハンマドの死後、後を継いだアブー・バクルに尊称として与えられたのが最初だ。
千一夜物語では、「教主」と訳される。

カリフは、その後ウマイヤ朝、アッバース朝とイスラム帝国の元首の称号として引き継がれ、
アッバース朝がチンギス・ハーンの4男トルイの息子、
フレグ(フビライ・ハーンの弟)に滅ぼされると、アッバース王家の生き残りはマムルーク朝に逃れ、
マムルーク朝のスルタン(王)、バイバルスは、これを新たなカリフに擁立する。

その後マムルーク朝もオスマン朝に滅ぼされると、カリフ位は消滅した。
オスマン朝の最高権力者の君主号は「スルタン」だが、
要するに王が宗教界の長も兼ねるようになったのだ。
ISISが批判する現在のイスラム教国の政体は、この型である。

というのは、現在のイスラム教世界が、一旦オスマン朝が征服した領域が、
何度かの世界大戦を経て各々の国に独立した結果だからだ。

これらのことを西側寄りの日本人に、より馴染まれているキリスト教で説明すると、
キリスト教世界での宗教界の最高権威は言うまでもなく法王であり、
近世くらいまでの王権神授説に従えば、各国の王は神に任命された存在となる。
つまり、宗教権威が世俗権力の上に立つわけで、
ISISが標榜するカリフ制国家とは、要するに自分たちがローマ法王よろしく教主を立てるから、
各イスラム教国の国家元首はオレ達に従えよ、というわけだ。
時代錯誤も甚だしい。

中国だか韓国だかが、どこそこの国の領土は、
うん千年前はオレ達の領地だったのだから、現代でもオレ達のものだ、
と主張しているのに似ている。
ママにもう一回便器で産んでもらったら、としか言えない。
そうすれば、水洗されるときに、過去に戻れるかもしれないから。


私が考える限り、現代はテロが蔓延るとはいえ、世界は平和だから
(第2次大戦までは1世紀の間に、10万以上の人が命を落とす戦争が何度も起きている)
先進国の間では政教分離が比較的進んでいるが、
元々イスラム教とキリスト教は政治の道具として普及した。

イスラム教は征服の大義名分として。
キリスト教は君主の地位安泰のため。
キリスト教はローマ時代にその統治下で生まれた宗教だが、
当時ローマの皇帝位とは市民と元老院の承認の元に成り立っており、
少しでもデキの悪い皇帝は簡単に暗殺されたから、
ローマ時代の皇帝、コンスタンティヌスやテオドシウスが、
自らとその皇統の安全のため、皇帝は神に承認された存在とすることで、
不可侵の地位とすることを意図して、キリスト教を公認したわけだ。

この辺の事情はローマ人の物語を読んでいると、分かりやすい。

そして、イスラム教もキリスト教も唯一神である。

イスラム教:「アッラーをおいて他に神なし」
モーゼの十戒:「あなたは主の他に神を持ってはならない」

不信心者である日本人から見れば、頭がおかしいとしか思えない。

だから、この二つの世界宗教が争う原因というのは、何も不思議なところなどないのである。
現代は、キリスト教とイスラム教が近世と攻守を入れ替わっただけだ。

領地や権力がどうのこうのという話と、人の命を奪うこととは、別の問題である。
何物にも人権侵害は許されないし、それを受け入れられないものは、
現代に生きる資格はない。
いやなら自ら命を絶ってもらうしかない。自分一人だけ。


そんなところまで予備知識を持って読めば本書の面白さも格別だが、
ここでいうカリフとは、その名をかたるテロリストの元締めである。

今回のダニーの任務はこいつの計画の阻止であり、
これまた前々回からおなじみの嫌味で口だけが取り柄のバッキンガムは、
最後ざまあみろな結末を迎えることになる。

今回も悔しいが訳者あとがきにあるように、
本当に一気読みしてしまった。
賞味上下巻各1日だった。

ところで、「シ」と「ジ」の発音表記などどうでもいいから、
作中の登場人物の名前を人物紹介のところで書き間違えるのはやめてほしい。

本当に、竹書房はずさんな出版社だ。

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