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■2022年4月27日:スパイ小説の世界へようこそ V-12

22

結局、味方の死傷者は死者4名、負傷者2名だった。
負傷者のうちのもう一人は、オマルが逃げ込んだ先のダイニングで、
彼が撃っためくら打ちの1発が運悪く肺に当たって、
声が出せなくなっていたために、危険を知らせることができなかったのだ。
防弾チョッキを着ていたが、肩口の隙間から入り込んだのだった。

「しかし、何であんなことをしたんだ?」
五十男がつまみのコールドミートをかじりながら妻に訊いた。

「何が?テロリストの前に出たこと?」
コニーが訊かれて答える。

「ああ」

「あなたを救うためよ」

プーが え、僕じゃなくてそっち?という顔をしていた。

「そうよ、あのとき私が動かなかったら、あなたたちは二人とも死んでいたわ。
だって、あのテロリストはマシンガンを持っていたもの。
あの銃は、弾がいっぱい出るやつでしょ?」

「それはそうだが、もう今後二度とあんなことはしないと約束してくれ」

「それはあなたたち次第ね。
わたしを呼んだのはあなたたちなんだから」

そう言われると、五十男とプーは何も言えなかった。

五十男に撃たれて死んだテロリストの若者は目を見開いて死んだが、
死に顔はなぜか穏やかだった。
どういうわけか、肩の荷が下りたような安らかな表情で、
その理由のわからない情景が、3人の心に残った。


衛星偵察の結果、カラ島付近に漁船が2艘、停泊しているのが確認されていたので、
付近が捜索され、その通り2艘の漁船が舫われており、船内から手榴弾や7.62mm弾
といったものの他に、防水バッグも発見され、テロリストたちが乗ってきた船、
という推測が裏付けられた。

カラ島も徹底的な捜索が行われ、土が掘り返されたところがあり、
その周辺も捜索された結果、遺体が一体発見された。
遺体はアラブ人で、身に着けていた衣服から、テロリストの一味と結論付けられた。
検視が行われ、足首にウミヘビに噛まれた痕があり、その毒が死因と判定された。


事件のあと、彼らはリゾートの向かいの系列のレジデンス
(長期滞在者向けのホテル)のダイニングでくつろいでいた。
リゾート側が、感謝の気持ちを表して貸してくれたのだ。

ワインのコレクションが豊富で、ゴドフロアなどはしばらく吟味した挙句に、
お気に召した一本を選んで上機嫌だった。

「これでスヌーク台でもあれば言うことなしだな」
彼はレジデンスのダイニングをそう評して言った。

「それじゃあ、バーになっちゃいますよ」
とプーが返す。


昼間は、みなで海で泳いだ。
ここは湾になっていて、リゾートの目の前の海は汚いのだが、
ボートを借り出して沖まで出て、誰もがはしゃいだ。

特に、若い特殊作戦師団の面々は、大いに羽目を外した。
それを眺めつつ、体力がある連中は何でもありだな、と五十男は思った。

タイは、夏が終わってそろそろ雨期に入るころだった。


一晩ゆっくり休んだ後、彼らは乗ってきたブラックホークでロッブリーに戻った。

基地では、複雑な表情のアドゥルが待っていた。
任務が成功したのは喜ばしい反面、多大な損害が出たことも確かだったからだ。
しかし、彼はそのことで部下を咎めたりしないだけの分別は持っていた。

実は、この部隊は今回が初の実戦任務で、
浮き彫りになった問題点は山のようにあった。

謎のままに終わった、今回のISの陰謀も未解明だった。

五十男たちは簡単に労をねぎらわれただけで解放されたが、
プーだけは、別室に呼ばれて連れていかれた。

「かわいそうに、あの様子じゃだいぶ絞られるな」

五十男は誰にいうともなく、そうつぶやいた。


「オオシマ、またな」

振り向くと、ヌラディンがいた。
彼とも今回はここでお別れだ。
二人は握手して分かれた。

ゴドフロアはいつの間にか姿を消していた。

エピローグ

五十男とコニーは、五十男の亡妻の実家、ナコンサワンに来ていた。

墓参りは終わって、夕食も終え、二人は部屋に引き返してきたところだった。

「あなた、わたし妊娠したみたいよ」
だしぬけにコニーが言った。

「本当かい?いつわかったんだ?」

マフアンの家は木の家で、本当に木の板を渡して作ってあるので、
板と板の隙間から、地面が見えた。
五十男は無意識に下に誰かいないか目を凝らした。

「今朝よ」

そういってコニーは体温計状のものを振って見せた。
小さいな四角い窓が2つあって、両方の穴の中に赤い線が見える。

「ということは、あの作戦のときには、既に妊娠していたのかな??」

コニーはゆっくりと首を縦に振った。

「多分。

ね、わたし、生むときはシンガポールに帰りたいんだけど」 

「いいよ。わかった」

五十男はシンガポールの店主は酢飯の代わりに赤飯を炊けるだろうかと、
しようもないことを考えた。

「マリーも連れて行けるかしら」

「手続きすれば平気だよ。準備しよう」

この二人の未来は、開けたばかりだった。

あとがき

五十男シリーズ第三弾である。
これを掲載するころには、私は日本に帰っているが、
よくもまあこんなしょうもないものを三回も書いたものよ、と思う。

最後のリゾートのくだりは、昨年末に旅行して取材しようと考えていたのだが、
費用の関係で変更したので、想像で書くことになった。

リゾートというやつは、時期によって安い高いが結構劇的に変わるのだ。

前作は、実際のところ今回もう一人の主人公となる人物を語る、
布石に過ぎなかった。
その前置きは、今回に十分活きているものと考える。


そして今考えているのは次回の展望で、今後、続編を書くとしたら、
私はもう日本に帰ってきてしまっている身だから、
東南アジアを舞台にしたものは書きにくいのだが、どうなることか。

まだ書く気はあるので、気に入ってくれている方は、
気長にお待ちいただければと思う。


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