戻る

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

■2016年7月18日:真夜中の復讐者

クリックして拡大  原題:IN THE HOUR BEFORE MIDNIGHT(1969年イギリス)
 著者:ジャック・ヒギンズ
     Jack Higgins/1929- イギリス生
 文庫初版:1990年7月20日 ハヤカワ文庫
 時価格:420円
 巻数:単巻
 品番:NVヒ1-13
 管理人読了日:2004年10月5日
 映画化:未
 映画題名:−
 映画主演俳優・女優:
 日本語DVD化:

またヒギンズの古い小説の登場だ。
日本での刊行は「鷲は舞い降りた」よりも後だが、
それは同書が売れたからで、それまではヒギンズの日本での知名度はそれほどでもなかった(らしい)。

本書はヒギンズには珍しく(といっても他に全くないわけではない)、一人称視点で書かれている。
そして物語の舞台はお得意の第二次大戦時のヨーロッパやIRAがらみではなく、
シチリアが描かれている。

とはいっても、シチリアといえばマフィアだし、マフィアなら「テロリストに薔薇を」にも
コルシカ島のマフィアが登場するし、「ルチアノの幸運」にはシチリアのマフィアも登場する。
だから、ヒギンズにとって不得意な分野、というわけでもない。

さらに、ヒギンズは中国(虎の潜む嶺)を描いた作品も何冊かあるから、
文字通り博学としか言いようがない。

しかも本書に於いてはローマ時代の事跡等もふんだんに登場し、
その描き込みようといったら精緻を極めており、従って私ののめり込みようも激しかった。


主人公のステイシー・ワイアットは、コンゴ動乱(@A)に参加した元傭兵で、
ご存じのとおりコンゴから傭兵達が撤退した後、しばらくその辺を流していたが、
ひょんなことからエジプトで捕まり土牢に入れられていたところを、
元傭兵部隊の上官に救い出される。

ところが、それは友情のためだけではなく、仕事への参加を条件とされており、
主人公は大いに気分を害される。

ところで、このステイシー、実はシチリア・マフィアのドンの孫で、
地元でその名を出せば誰もが畏敬の念をもってひざまずくほどの実力者。
本人はそんな境遇が嫌で祖父の元を抜け出して傭兵になったようなものなのだが、
今回の件では奇妙な協力関係を築きつつも、あるものに邪魔されて歯痒い思いをする。

それは何かと言うと、マフィアの掟だ。
マフィアの掟は死よりも重要で、仮に孫の生死に影響しようとその掟に背くことはできない。
たとえドンであっても。

それは読者からしても創造にしか思えないが、イタリアの歴史を少しでも知るものにとっては、
完全に納得できる話だ。

イタリアは、今でこそ政治は腐敗しているかもしれないが、
古代ローマからヴェネツィア共和国まで、法治国家を主とした国であった。
古代ローマでは、元首である執政官が不正を働いた自分の息子を処刑したり、
アウグストゥス(オクタヴィアヌス)が自ら制定したユリウス姦通罪
(不倫関係を結んだ女が有夫の身である場合、資産の3分の1を没収されたうえで終身追放。
塩野七生「ローマ人の物語」文庫版第16巻p26)を自らの娘ユリアが犯したため、
彼女を流刑とした逸話はあまりにも有名である。

だから、マフィアのドンとすれば、孫の行く末については、見守るしかなかったわけだ。


このように、考証に富んだヒギンズの作品の中でも、本書は特にその密度が濃い。
前にも書いたがヒギンズ小説は古い作品の方がより味が濃く、脳髄に響く。
今では古本屋以外で手に入れるのはなかなか難しいとは思うが、
ぜひ手に取って読んでいただきたい作品の一つだ。

Tweet


関連記事:

■2016年3月21日:ヴァルハラ最終指令
■2015年5月30日:虎の潜む嶺
■2014年8月22日:非情の日
またしてもジャック・ヒギンズの別名義の作品。本書は、「悪魔と手を組め」とプロットが非常に似ている。しかしながら舞台年代も、登場人物の動機も、全く異なる。■2014年3月26日:暴虐の大湿原
ヒギンズものの紹介が続いているが、大好きな作家なのでご容赦願いたい。■2013年11月11日:悪魔と手を組め
今回紹介する「鷲は飛び立った」は75年刊行の名作「鷲は舞い降りた」の続編である。物語の中では続編だが、両作品の刊行年は15年も離れている(何でも長編50作記念らしい)。本Blogでも、通算50作目の節目に採用した。私も先日久しぶりに再読したのだが、初めて本作を読んだのは16年前のことだった。歳は取りたくないものだ。■2013年10月14日:鷲は飛び立った
本書もまた充実した古本ラインアップを抱えるAmazonで掘り出してきた、ジャック・ヒギンズの初期の作品。ヒギンズの古い作品はどうしてこうもロマンに溢れているのだろう。■2013年7月27日:鋼の虎
ヒギンズの小説としては中期の作品で、その中でも完成度の高い活劇として仕上がっている作品を紹介する。■2013年4月23日:テロリストに薔薇を
ヒギンズの小説は私の蔵書(というほどのものではないが)の中で一番数が多いと思うのだが、その割にはあまり紹介していない。まあ勿体ぶっている部分もある反面、UPしている量ものらくらしているので、こんなペースなのだろう。■2012年10月5日:サンダーポイントの雷鳴
迫真のストーリー。そんな形容がまさにピッタリの作品。ジャック・ヒギンズの初期の作品で、この頃のヒギンズは多くの名義を持っており、本作の場合は「ジェームズ・グラハム」。■2012年6月6日:サンタマリア特命隊
ジャック・ヒギンズは私の大好きな作家である。最初は友人に映画を「あれ面白いよ」と薦められて映画とともに原作も読んだような覚えがある。というかナヴァロンの要塞もそのパターンだったのだが、今頃彼は元気だろうか(オイオイ、ごめんねK君)。ところで本書には「完全版」もあるが後付けであり、何が違うのか今となっては私も覚えていない。■2012年1月18日:鷲は舞い降りた



戻る