■2017年8月20日:復讐の血族・報復の鉄路
ジャック・ヒギンズの日本での最終刊を紹介しようと思う。
といっても、彼の本は本国イギリスではずーっと刊行されていて、
日本では早川書房から角川書店に版権が移った「双生の荒鷲」から6冊出版されているが、
どうもその辺から日本では馴染みが薄くなっているように思う。
今回はその角川書房刊のうち、最終巻は色々と取り上げられているだろうから、
最後の2冊をまとめて紹介する。
この2冊は連冊である。
登場する悪役は「ラシッド家」といって、イギリスとアラブの名門の混血一族を
代表する4人の兄妹たちで、当然ながら大富豪である。
ニューヨークのトランプ・タワーにも住居を持っている。
彼らがわけのわからない屁理屈を並べて、
背筋がぞっとするような悪事をアメリカ合衆国と、
紳士の国イギリスに対して試みるのが本作の概要である。
このような場合、あらすじを追って行ってもおもしろくないので、
ざっくばらんに述べることにする。
アメリカ側の正義の味方は少し前の作品から登場している、
ジェイク・キャザレット大統領と、その直属の捜査機関<ベイスメント>の責任者、
ブレイク・ジョンスン。
そしてイギリス側はお馴染みチャールズ・ファーガスン率いる
永遠の悪党ショーン・ディロンと、これまた最近登場し始めた、
ギャングのハリー・ソルターとその甥、ビリー・ソルター。
さらに永遠の”脇役”、トニー・ヴィリアーズまで登場。
彼は「報復の鉄路」では齢50才になるとのことで、
そろそろこの手の”悪ふざけ”にはうんざりしているらしい。
トニーは今回、
「変な話だが、ディロン、おれはライフル射撃があまり得意じゃないんだ」
と心情を吐露している。
それは確かに今さらだ。
さて、こんなオールキャスト状態で、舞台はアメリカから始まって、
アイルランドからイギリス、アラビアの砂漠を何往復もしながら、
目まぐるしい攻防戦を展開する。
ところが、活躍するのは専らディロンと相棒のビリーで、
ことにディロンは「報復の鉄路」の訳者あとがきではないが、
007のジェームズ・ボンドばりのアクションを繰り広げ、
今回はさすがに「疲れた」らしい。
”悪”側のラシッド一族の方は、こういう連中の常で筋の通らない復讐劇を
行おうとするのだが、上の3人の兄たちはディロンにぽん、ぽん、ぽんと
簡単に退治されてしまい、読んでいる側からすれば正義が果たされるのが
読んでいて小気味良いぐらい。
最後に残った妹のケイトに対しても、ディロンはきっちりとけじめを付けてくれる。
物語はこうでなければいかん、という帰結をヒギンズは表現してくれた。
何だかこの頃のディロンはすっかり悪の資質が抜けて完全に正義の味方然としてきたが、
最後に登場する彼の姿には、惜しみないエールを送りたくなる。
我が社の中国支店にいる中国人の同僚から、
5年くらい前に中国に行った際に聞いた言葉が思い出された。
「お金持ちは何かしら悪いことをしているんですよ」
色々と新聞紙上を賑わすお国の人の発言だけに、今でも心に沁みている。
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