■2019年11月23日:勇者たちの島
「 鷲は舞い降りた」の下書きになったと思われる作品。
主要登場人物のマンフレッド・シュタイナーは、その人格といい、
与えられた任務(魚雷艇を敵艦艇に衝突させる)といい、
「鷲は舞い降りた」のクルト・シュタイナー中佐に瓜二つだ。
ラードル大佐は全く異なり、ここでは嫌な奴として書かれているが、
ここまででヒギンズの読者なら下書きで間違いない、とお分かりだろう。
物語は第2次大戦の終戦間際。
既に敗色濃厚だったドイツ軍だが、前述の魚雷艇による活動、
「ニガー作戦」の詳細を探るため、
オーエン・モーガン中佐はチャネル諸島の架空の島、サン・ピエール島に潜入する。
チャネル諸島といえば、ヒギンズはここのジャージー島に住んでいた(住んでいる?)
ことがあり、取材不要の勝手知ったる土地であっただろう。
チャネル諸島は他にも、「謀殺海域」等で題材とされている。
さらに、サン・ピエール島はモーガン中佐の生まれ故郷でもあった。
モーガン中佐は単身で乗り込んだわけではなかった。
彼自身はイギリス陸軍なのだが、アメリカのレインジャー部隊も
陽動で別個に潜入する予定だった。
いや、潜入したのだが、運悪くどちらもドイツ軍に発見され、捕らわれてしまう。
しかし、そんな彼らの苦労も、
ニガー作戦なるものはとっくに実施されていなかったことから、報われずに終わる。
使用する魚雷そのものが尽きていたのだ。
生まれ故郷であるからして、初恋(?)の人に再会するモーガン。
そしてその相手であるシモーヌは、現在はシュタイナにぞっこんであることを知るのだが、
シュタイナの人となりを知り、自身も今では妻帯者の身であり、
不思議と抵抗なくその事実を受け入れるモーガン。
敗戦間近であるため、正常な精神の持ち主であれば、
いまさら連合軍将校を捕虜に取るなどバカげているのだが、
それを頑強に否定するラードル大佐。
但し、彼は後任者待ちだった。
ところでこの海域では、北の海だから、船の座礁・海難が日常茶飯事だった。
ドイツ軍兵士であるシュタイナを始め、モーガン少佐らも捕囚生活を続けながら、
後任のオルブリヒト少佐の船での到着を待つ。
しかし、果せるかな、折からの強風でオルブリヒト少佐の乗った船は座礁寸前となる。
元々この地に住んでいた当時は、救助艇の乗組員だったモーガン中佐。
敵味方の確執を捨て、総出で救出に向かう。
奇跡の帰還後も一波乱も二波乱にも見舞われるサン・ピエール島。
最後は誰もが納得いく結末となるのだが、
なぜ重版されないのか理解できないくらい、
運命に翻弄される男たちの激闘を描いた傑作だ。
関連記事:
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■2012年1月18日:鷲は舞い降りた